コミュニティ形成で直面する「浄化力」
そうした「コミュニティの形成」で大切なのは、「コミュニティの浄化力」です。たとえば「レストランガイド」を例にとっても、投稿する方々、レストランの批評をする方々が嘘を書く可能性もあります。これをどう検知して対応していくかが、浄化力です。
これはとても難しいテーマで、自社内でひとつひとつ検知しようとすると大きなオペレーションコストがかかります。一方で、コミュニティに参加している人たちが自ら「これは嘘だよね」と言っていけるプラットフォームを目指したいところですが、行き過ぎれば「自粛警察」みたいに相互監視の状況になってしまう。自浄と監視は表裏一体です。
これはいまでも、フェイクニュースをどう退治するかという形で問題になっています。
ツイッターではアメリカ大統領選挙を前に、「リツイート」より「引用ツイート」を推奨し、コンテンツを拡散する際に自分のコメントを付けてツイートするよう促す設計に変えました。会話に参加する意味や追加する内容について、ユーザーに少し考える時間をとってもらいたかったからです。
変更以来、リツイートと引用ツイートを合わせた数は実質的に20%減少。情報の共有量全体を減らしたことで、誤情報の拡散を抑制したともいえるでしょう。でも、本当にこれでいいのか。もっと形はないのか。影響を確かめながら、もう少し時間をかけて検討していくことになるでしょう。
事業の成功は本人たちもわからない
見方を変えれば、これだけ現代的な問題に、「クリエイティブ・リンク」は当時から直面していました。その意味でも、時代を先取りしすぎたといえるかもしれません。
インターネットバブルが弾けなければ、成功する可能性はあったと思います。それ以降、インターネットが再びすごく伸びてきたのはご存知のとおりです。やっぱり、タイミングが早すぎた。当時はまだバナー広告の黎明期くらいでしたから。
ぼくはいつもビジネスに必要な要素を「人・モノ・金・時」と言っていますが、なかでも「時間軸」を痛いほど意識するのは、このときの経験によるところが大きいです。「時を読み違えたなあ」「時を我慢しきれなかったなあ」と、いつも思います。
ビジネスのタイミングがいいか悪いかは、外から見てもわかりません。キャッシュフローをどのぐらい我慢できるかなど、内部にしかわからない事情もあるからです。
「リーン・スタートアップ」という言葉があります。「最初はテスト、テストを繰り返し、投資をするときは一気に投資する」というスタートアップ企業にいいとされる経営手法です。クリエイティブ・リンクはいきなり中国に行ったわけですから、リーン・スタートアップの観点からすると真逆の方法です。大企業がやることを小さな会社がやってしまったんですね。
事業が成功するかどうかは、本当にさまざまな要素によって決まります。立ち上げた本人たちですら、どうなるかはわからないものなのです。
構成=竹村俊助 @tshun423
写真=杉山秀樹/文藝春秋