九州と首都圏を結ぶ日本の物流の大動脈
2019年12月18日。「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島」のレフトスタンド後方に広がる広島貨物ターミナル駅の上り5番線に、JR貨物・広島支店長の山田哲也さんと並んで立つ記者は、西の方角を眺めていた。山田さんは、この記事の冒頭で「急坂を登ってみませんか」と誘ってくれた人である。
13時39分、EF210(愛称:桃太郎)を先頭に15両編成の貨物列車が入線してきた。
この列車はこの日の早朝6時16分に福岡貨物ターミナル駅を出発し、鹿児島本線、山陽本線、東海道本線、武蔵野線、高崎線を通って、明日の午前10時48分に到着する群馬県の倉賀野駅(高崎駅の1つ東京寄り)を終点とする「第1056列車」だ。九州と首都圏を結ぶ日本の物流の大動脈を、一昼夜をかけて走り続ける高速貨物列車なのだ。
長距離列車とはいえ、積み込まれる貨物もすべてが長距離を移動するわけではない。この第1056列車は、始発駅から途中駅、途中駅から終着駅、途中駅から途中駅、といった区間利用が大半を占める。
惚れ惚れするフォークリフトの積み下ろし動作
この列車にとって、ここ広島貨物ターミナル駅は途中駅だ。列車が到着するやいなや数多くのフォークリフトが貨車に取り付き、コンテナを下ろし、また積んでいく。そのキビキビと動く姿は壮観で、見ていて惚れ惚れする。
列車の最後部の貨車には、そこが終端部であることを示す「後部標識」という赤い円盤が2つ取り付けられている。しかしこの駅からは、この後ろにもう1両、電気機関車がつながるのだ。
門司方の機待線(機関車の留置線)から、青いスマートな顔立ちのEF210がゆっくりと近づいてきた。
前照灯の横にある赤い標識灯が、右側(こちらから見て左側)だけ点いている。これは「入換作業中」を意味するのだが、“泣きぼくろ”のようにも見える。
列車最後部の貨車に連結すると、すぐに前照灯も標識灯も消えた。
居住性に優れる運転室
早速補機の運転室に乗り込む。運転士の坂林大輔さんと、指導係の加川尚さんが出迎えてくれた。山田支店長を含む4人が乗っていても狭くは感じない。
前回、新鶴見から東京貨物ターミナル駅まで乗った機関車はEF65という昭和の機関車だった。これは筆者が大好きな機関車なのだが、運転室は狭かった。
それに比べて今回のEF210は、新しいだけあって居住性にも優れている。
山田支店長と坂林運転士の間で添乗報告が交わされた。
「(敬礼!)運転状況異常ありません。車両状態良好です。注意事項、帰りの“単599列車”が八本松駅~瀬野駅間で下り本線65キロの徐行があります。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします(敬礼!)」
怠惰な生活を送っている筆者は、こうして統率のとれたやりとりに接するとピリッとして気分が高揚する。関係ないのに敬礼したくなったりする。
運転室内に無線連絡が入る。本線上を走る別の旅客電車に車両異常を知らせる事案が発生し、対応中という。貨物列車も本線に出れば旅客電車と同じ線路を使うので、状況次第ではこちらにも影響が出る。