無線のやりとりに、感動が「じゅわっ」と湧き上がってくる
他にもどこかで別の機関車が何かのテストをしているらしく、
「△△良好です」
「△△了解です」
といったやりとりも流れてくる。
ああ、いま機関車に乗っているんだな、という感動が「じゅわっ」と湧き上がってくる。
「今日は目の前の貨車にコンテナが載っていないから見通しがいいですね」
と山田さん。
言われて気が付いた。目の前、つまり本来の最後部である貨車にはコンテナが載っていない。貨車1両に12フィートコンテナを5つ載せられるのだが、目の前の1両だけが丸々空いているのだ。この先の駅から積み込まれるのかもしれないが、とりあえず記者が添乗する区間だけはコンテナがないほうがありがたい。喜びかけたところで山田さんが言った。
「営業的には貨物を積んで走りたいのですが……」
うっかり喜ばなくてよかった。あわてて残念そうな表情をつくってみる。
先ほどの旅客電車の車両異常の件は乗客が誤って緊急ボタンを押したことが判明し、2分遅れで出発したという。大きな影響はなさそうだ。
晴天である。遥か前方に緑の丘陵が連なっている。これからあれを踏破するのか、と思うと心が引き締まる。頼んだぞ、という気分になる。
「ピヨーッ!」「ホヨーッ!」 「汽笛二声」で出発
運転士が確認作業を始めた。これが始まると発車が近いことは、過去の添乗経験で知っている。緊張感はMAXだ。
先頭の機関車(これを「本務機」とよぶ)の運転士から連絡が来た。
「1056列車の補機さん。発車します。どうぞ」
「1056補機。発車了解しました。どうぞ」
遥か前方で「ピヨーッ!」と汽笛が鳴った。
それに呼応して、今度は我が機関車が「ホヨーッ!」と汽笛を鳴らした。
「瀬野八」に挑む貨物列車の出発は、「汽笛二声」なのだ。
14時44分30秒。定刻通り広島貨物ターミナル駅を発車した。
「普段走れないところを走る」感動を味わえる貨物線
広いターミナルの中をゆっくり走っていくわが列車。ポイントを渡るたびに前方の貨車たちが左右にくねるように動く。竹製の「へびのおもちゃ」のようだ。
広島貨物ターミナルを出発した貨物列車は、2つ先の海田市駅までは貨物線を走る。4本ある線路のうち、両端の線路が山陽本線、中央の2本が貨物線、という割り振りだ。記者はこの「貨物線」をこよなく愛する。普段走れないところを走ることに並々ならぬ感動を覚えるという、妙な性癖を持つ不審者なのだ。
徐々に速度を上げながら海田市駅を通過し、左にカーブを切る。
すぐに貨物列車とすれ違った。昨日の16時17分に札幌貨物ターミナル駅を出て、青函トンネルをくぐって本州に渡り、東北本線、東海道本線、山陽本線と、遠路走り続けてきた第8059列車だ。行先はいま我々が出てきた広島貨物ターミナル駅。23時間近くをかけて走ってきた彼は、あと5分ほどで終点に到着する。規定投球回数を投げ終えてベンチに下がる投手のような佇まいだ。「お疲れさま!」と言いたくなる。