カレーをかけても「バリッ」の秘密
さてお次はカレー。カツカレーと言えば町田の「アサノ」だ。今年で創業30年、その名声は全国に響き渡っているが、今も昔のまま、町田の仲見世商店街でわずか7席のカウンターのみの小さな店で営業している。現在の店主は2代目、創業者の息子さんである浅野信三さんだ。
「うちの親父がね、自分で飲食店やりたいって昔から思ってたらしくて、60歳のときに調理師免許をとって、61歳で始めたのがこの店なんですよ。ぼくは親父よりも前に免許をとってて、その関係で知り合いに箱根のホテルでシェフをやっている人がいたんだけど、その人のカレーがほんとに美味しくてね。それで頼んで教えてもらったのが、カレー屋になったきっかけです。4日かけて作ってるんですよ。ほら、食べてると汗もすごく出るでしょ。薬膳というか、スパイスもいろいろ考えて調合してあるし、野菜も具で入っている他に、ソースには玉ねぎも人参も入っているしブイヨンも使ってて、もちろん肉もある。体にもいいんですよ」
まさに額に汗しながらカツカレーをいただいたのだが、ほんとうに体の内側からほてってくる。決して辛いわけではないのに、体がどんどん熱くなる感じ、これがスパイシーさというものなのか。
「それでカツカレーの話だよね。うちは昔から高座豚を使ってるんです。肉屋さんが豚を買ってくるときに生産者さんと話をつけてて、出荷する中でも特にいいやつ、それもメスの豚をわけてもらってます。メスのほうが柔らかくてサシが入るというか、きめ細かいんだ。だからうちの肉は、そのへんのスーパーに卸したら100gで320円くらいはするやつだよ(笑)。カレーはやっぱり味が強いからそれに負けない強さが必要だし、でも甘いばっかりの脂みたいに味がいやらしくならないようにするには、ってなるとこういう良い豚を使ったほうがいいんだよね」
「揚げ油には特にこだわりはないんだけど、衣はいろいろ考えてね、細かいものを使ってます。とんかつだけで食べるんだったら、パン粉が立ち上がっててふわっとしてるのも美味しいんだろうけど、うちはカレー屋だからね。うちのような衣の方が、カレーをかけたときにもバリッとした感じがちゃんと残るでしょ」
問われる“カツの選択”
たしかに衣が全体で一枚になっており、カレーでしめっても多少のことでははがれないし、バリッとした感じもちゃんと残っている。高座豚の柔らかさもあって、ごはん、カレー、衣、豚肉がひとつの味にまとまっている。ふわっとした衣の、分厚いとんかつだとなかなかこうはいかないだろう。
そば屋のカツ丼、カレー屋のカツカレー。それぞれのとんかつ料理にきちんと最適化されているカツは、なかなか独特だ。いままで話を伺ってきたとんかつ屋でも、カツサンドはちょっと変えて、という話が出てきたりしていたが、専門店ともなるとこれほどまでに振れ幅は大きくなるのだ。定食ではない、とんかつ料理もなかなか奥が深い。
写真=かつとんたろう
翁庵
台東区東上野3丁目39−8
カツ丼 980円
アサノ
町田市原町田4丁目5−19
リッチなカツカレー 1450円