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 毎年年末年始は、東花園駅が一年で一番盛り上がる時期でもある。全国高校ラグビー大会のシーズンなのだ。きっと、いつもだったらたくさんのラグビーファンが集まって、高校生たちの熱戦を楽しんでいたはずだ。だが、今年の高校ラグビーはすべて無観客試合。静かな花園の町で熱戦が繰り広げられるのである。

ラグビーの聖地「東花園」

 ラグビーへの未練を断ち切って東花園駅をあとにすると、もう眼前には生駒山地が迫っている。生駒山地は大阪と奈良を隔てる山地で、関西在住の人ならば実に馴染み深い山だと思う。山の上には遊園地があったりテレビの電波送信所があったり、関西のいわばひとつの象徴のような山だ。

 ただ、この生駒山地があるがゆえに大阪と奈良の往来は実に難儀なものになっていた。特に鉄道は勾配に弱いから、旧来は生駒山地を避けるように北や南を迂回して遠回りするしかなかったのだ(北をゆくのがJR学研都市線、南回りがJR大和路線)。

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 そこでなんとか直線的に大阪と奈良を結ぶことができないか、と建設されたのがこの近鉄奈良線である。1914年、当時の大阪電気軌道によって開通した。長さ3000mを超えるトンネルが生駒山地を貫通し、開通するやいなや大阪と奈良を結ぶ鉄路のリーダーに踊りでた。その当時のトンネルは1964年に完成した新トンネルに置き換わっているが、今も奈良線の役割の大きさは変わっていない。

生駒山地は大阪と奈良の往来を長年にわたって阻んできた

 つらつらマジメなことを書いたが、つまるところ近鉄奈良線のハイライトは生駒山地越えにあるといっていい。生駒山地は大阪側が急勾配、奈良側がなだらかという偏った形をしているので、トンネルに突入するまでに奈良線の電車は標高を稼がねばならぬ。そこで瓢箪山駅を出たあたりから北に進路を変えて、すこしずつ生駒山地の西の裾を登ってゆく。

 その勾配は30‰。%(パーセント)ではなく‰(パーミル)で、1000mあたり30m登っているという意味だ。クルマや徒歩では大したことのない勾配だが、鉄のレールと車輪で走る鉄道にとってはほぼほぼ限界値。瓢箪山~石切間の奈良線は、そうした急勾配を必死に登っているのである。

あべのハルカスに沈む夕日の絶景

 その途中、額田駅から石切駅まで、つまり一番標高の高いところを目指すあたりでは、西側に(電車でいうと奈良方面を見て左側)に大阪平野が一望できる。遠くに見える高いビルはあべのハルカス、目を凝らせば大阪城も見えるのかもしれぬ。