クマのささやき
53年10月5日付けの福井新聞に、この秋のクマ大出没を受けた特集記事に「クマ報道での名文中の名文」が載っている。
『クマと出くわしたら騒いだりせず、付近の窪地へ素早く伏せ、とくに顔を地面に、へばりつき静かに息を殺しているとクマは一応、背中を、なでる程度で危害を加えず、しばらくすると行き過ぎると言われている。これを「クマのささやき」という。』
私も一貫して、この文章の論旨と同じ言い方で対処法を勧めている。最初の小さなクマの手出しが「ささやき」で、その後被害者がどういう対応を取るかで重大事故へと拡大するか、その軽減法を私は近年の事故例から探っている。「クマのささやき」は、どこかに原典があるのだろうか。誰が言ったのだろう。
(2)監視型
『53年10月23日、長野県永田村で男性(34)がキノコ採り中、後ろから突然に襲われて重傷、咄嗟に身を伏せて死んだ振りをした。クマは20分間ほど、周りを歩き続けて去った。』信濃毎日新聞(1953・10・24)
このように受傷して死んだ振りをし、10分後、20分後、30分後に見回したら、クマの姿が消えていた例が18人ある。
『76年4月28日、滋賀県木之本町でワラビ採り中の女性(66)が親子3頭と遭遇、死んだふり10分後、立ったら顔を殴られ重傷。』読売新聞(1976・4・29)
前2例の死んだ振りは、その後の様子が異なる。後者のように襲われて小さな被害を受けて死んだ振りをし、その体勢を5分、10 分、1時間と続けた後、立ちあがって逃げようとすると、ガツンと殴られて重傷に変じた事故が22人もある。
《クマは死んだ振りをした人を遠くから長時間、監視している》――米田
監視後にクマが去った人が18人あった。立つと、ガツンとやられたのが22人。待つべきか、立つべきか、難しい問題だ。後者は「遺体を守って24時間、蟠踞」の類型なのだ。こんなときは「クマの攻撃性が低い段階なので追い払う」爆竹が役立つだろう。