把握できていない「路上生活になるおそれのある方」の人数
実は行政上、以前の彼女たちのように住居を持たないけれどファミレスなどで寝泊まりをし路上生活未満で留まっている人々は、「ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者」であり(※1)、ホームレスとしてはカテゴライズされていない。
渋谷区生活福祉課は筆者の取材に対し、「路上生活になるおそれのある方の人数までは把握できていない」という。安心して過ごせる場所を求め、移動しながら暮らす彼女たちに対しては調査も支援も難しい、というのが実情だろう。生活保護を勧めても、さまざまな制約を嫌って固辞する女性ホームレスも少なくないという。幡ヶ谷の事件で亡くなった大林さんも、友人に勧められても、生活保護の申請をしていなかったと聞く。
渋谷区は「区内で把握している最新の路上生活者数は72人」(※2)、女性の割合については統計はないが、「ごく僅かです」と回答した。
「女性の路上生活者は、路上生活に至った原因や背景が複雑であったり、もしくは語って下さらず、その方に必要な支援は何かを把握することが困難な場合があります。また生活保護を申請された方は、無料低額宿泊所等に一時的に居住していただくことが多いですが、女性の受け入れ可能な施設が少ないことが課題としてあります」(渋谷区生活福祉担当者)
支援の手が届きにくい女性ホームレス
今夏、宮下公園跡地に商業施設「MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)」が開業したことに伴い、渋谷区が建設前、そこで寝起きをしていたホームレスに退去するよう働きかけた問題が再燃している(※3)。区に対する「ホームレス排除批判」の声は高まり、大林さん殺害事件をめぐっては、12月6日、「野宿者に対する排除と暴力を許さない」としたデモも代々木公園を出発地として開催された。
だが取材で見えてきたのは、必ずしも区が女性ホームレスの「排除」を行っているとは言えないという事実だ。むしろ手を差し伸べようにも、彼女たちの姿は行政からもとらえづらく、支援の手は届きにくい。
そんな彼女たちにとって、深夜営業のファミレスやファストフード店は、都心にある唯一の「シェルター」だった。雨風をしのげ、暖を取れ、危険から身を守ることができる。WiFiも入れば、携帯の充電もできる。長い路上生活のために、すえた臭いを放つこともある彼女たちを、店側も「排除」してはこなかった。