11月16日の早朝、東京都渋谷区の路上に女性が倒れこんでいた。すでに意識はなかった。近くに住む46歳の男が逮捕されたのは、5日後のことだった。
「死亡したのは大林三佐子さん(64)です。住所は不定。ホームレスとして路上生活を余儀なくされていたようです。大林さんが京王線幡ヶ谷駅近くの甲州街道沿いのバス停に座っていたところを、吉田容疑者が石を詰めたビニール袋を使って殴りかかった。その後の調べに吉田容疑者は『目障りだった』と供述しています」(全国紙記者)
無抵抗な女性ホームレスが暴行され、死にいたった痛ましい事件は各メディアで大きく報道された。しかし報道とは別に、ネット上で事件直後から拡散されたあるデマがある。
ネットの噂とは「殺されたのは“100円おばさん”ではないか?」というものだ。“100円おばさん”はSNS世代の若者の間では知られた存在で、渋谷のあるバス停の前で通行人に「100円ちょうだい!」と叫ぶ姿がSNSにアップされ、180万回再生を記録していた。
都心部に急増している女性路上生活者
筆者も彼女に遭遇したことがある。9月の深夜1時過ぎ、井の頭通りを歩いていると、暗がりからぬっと立ち上がり「100円!」と手を差し出してきた。彼女がいつもおなじブルゾンを着て、おなじバス停に座っているホームレスだと知ったのは、帰宅してネット検索してからだった。
幡ヶ谷の事件の被害者となった大林さんも、数カ月前からベンチで夜通し過ごす姿を、近隣住民に目撃されている。だが現在、最終バスの去った停留所を寝床にしてるのは、大林さんや「100円おばさん」だけではない。深夜の渋谷を歩けば、ハイブランドの液晶広告に煌々と照らされながら、ベンチで眠りにつくシルエットにあちこちで行き当たる。半数以上が男性だが、コロナ禍以降は女性の姿を目にすることは決してめずらしくない。厚生労働省の発表(「ホームレスの実態に関する全国調査」平成29年1月)では女性の路上生活者数は全体の約3.5パーセントと、圧倒的に数が少ないにもかかわらず。
実はいま、女性路上生活者が東京の都心部に急増している。そこには新型コロナウイルスが影響していると考えられるのだ。