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「私が見た深夜ファミレスの“女性ホームレス”はどこへ消えたのか?」渋谷の通称“執事”が明かした本当の理由

2020/12/24
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 大林さんは今年2月まで、派遣先のスーパーで試食品の販売員などをしていたと報じられている。派遣業に従事することも多い女性が「新型コロナの流行による契約解除」という憂き目に遭っていると語られるが、それだけが原因で女性の路上生活者が増えたわけではない。

 彼女たちの姿が路上に急増したのは約8カ月前――近隣に住む者の「目視」によれば――4月半ばが境目だったように思う。それは政府による緊急事態宣言が出され、飲食店が一斉に深夜営業を自粛した時期のことだった。

数百円のドリンクバー料金が宿代がわり

 BGMがかすかに流れる中、深夜までノートパソコンを広げ、キーボードを打ちこむ背中。ここ数年、電源席が増えた都心のファミリーレストランで、日常的になっている風景だ。

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※写真はイメージです ©iStock.com

 宵っ張りで原稿を書く筆者もこのグループに入るが、渋谷近辺の深夜帯のファミレスには、ノマドワーカー以前からもうひとつのグループが存在していた。数百円のドリンクバー料金を宿代がわりに、睡眠を取るホームレスたちだ。ほとんどが60代以上と見られ、中には生活に必要な荷物一式を、汚れたキャリーバッグ一杯にくくりつけた女性の姿もある。

 路上生活における危険から身を守るため、小屋やテントなどの居住地をもたず、深夜営業の飲食店を転々とする女性ホームレスは少なくない。彼女たちは朝が来るまでじっと動かず就寝しているが、時おりトイレに立つときの歩みは一様に遅い。高齢のためだけでなく、椅子で寝る生活が長く続いているため、どの背中にも脊椎がねじれる深刻な「後弯症」のような症状が見られる。

※写真はイメージです ©iStock.com

 だが2020年12月現在、彼女たちの姿はどこのファミレスを探しても見当たらない。彼女たちはどこへ行ってしまったのか。近隣のあるファミレスチェーンで訊ねると、夜勤を長くつとめているという店員が答えてくれた。彼は慇懃な接客姿勢から、常連客から親しみをこめて「執事」と呼ばれている。

「ええ、以前は20人ほど、寝ていらっしゃる常連の方がいらっしゃいました。男女比は半々といったところでしょうか。今はおひとりもお見えになりません。本部の方針で虹のステッカーを貼ってしまったものですから。我々としても22時までに閉めなければならないのです」

 うっすら細めた視線が、レジ横の壁に貼ってある東京都発行の感染防止徹底宣言ステッカーに向いていた。4月以降、都の要請に応じて深夜営業の飲食店が一斉に22~23時閉店になったことが、女性の路上生活者が急増した要因になったことは想像に難くない。