2019年に続き、今年もまた「2020年の言葉」のお題を頂戴した。この1年を代表する言葉を選ぶため、2020年がどういう年かを振り返ってみると、理不尽な1年だったに尽きるだろう。
理不尽だった2020年
生きているだけで遭遇する理不尽は枚挙にいとまがないが、新型コロナパンデミックに襲われた2020年は、多くの人にとって極めつけの理不尽に溢れた1年だっただろう。
感染者・発症者にとって理不尽なのは当たり前。感染に関係なく医業関係者は対応に追われ、旅客業は世界的に停滞し、多くの飲食業、接客業も大きなダメージを受けている。社会人のみならず学生や子供も学校閉鎖やリモート授業の影響を受けている。筆者も公私に渡って様々な計画が崩れたし、これを読んでいる皆さんも同様かもっと理不尽な目にあっているかもしれない。
このように理不尽にあふれた年だっただけに、本年を代表するような理不尽な言葉で、ネットメディアである文春オンラインに相応しく、ネットで注目されたものから挙げてみたい。
理不尽に溢れた2020年にあって、数少ない明るい話題は『鬼滅の刃』ブームだろう。昨年のTVアニメ化に続き、今年5月には「少年ジャンプ」誌上での連載は完結。10月に公開されたTVアニメの続編にあたる『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』はコロナ禍にありながら日本映画史上のさまざまな記録を打ち立て、12月に発売された単行本最終巻は書店に長蛇の列ができるなど、空前の社会現象となっている。
〈死んだ人間が生き返ることはないのだ〉
ここで取り上げる本作の台詞は、まさに今年を表す言葉として、筆者は並々ならぬ感情を抱いている。『鬼滅の刃』の悪役である、鬼舞辻無惨の言葉だ。
最終決戦直前、主人公・竈門炭治郎らと対峙した鬼の首領にして始祖たる鬼舞辻無惨の次の言葉を2020年の言葉として挙げたい。
死んだ人間が生き返ることはないのだ
いつまでもそんなことに拘ってないで
日銭を稼いで静かに暮せば良いだろう(『鬼滅の刃』第181話)
言葉の初出自体は、連載中の2019年11月の「少年ジャンプ」誌上だが、単行本化は今年になるので2020年の言葉としてお許しいただきたい。
創作のみならず現実においても「復讐は何も生まない」という趣旨の言葉はよく聞かれる。それも大抵は善良な側から発せられる言葉としてだ。確かに復讐を成し遂げても、そこからは何も生まれない。死んだ人間が帰ってこないのは紛れもない事実だ。
しかし、それらの端的な事実を口にするのは、理不尽の象徴にして加害者本人である無惨であり、何の装飾もなければ取り繕うこともなく、直球で炭治郎(被害者遺族)らにぶつけてくる。理不尽が理不尽を受け入れろと言うのだ。これには心優しい炭治郎も、無惨の存在を完全否定する返しをするくらいだった。