文春オンライン

2020年の言葉

『鬼滅の刃』の“理不尽な常習炎上者”鬼舞辻無惨の炎上ワード

『鬼滅の刃』の“理不尽な常習炎上者”鬼舞辻無惨の炎上ワード

理不尽な2020年だったからこそ

2020/12/28
note

 想像してみるといい。近年あった理不尽に人の命を奪った事件事故、心に思い浮かんだあれやそれでいい。その元凶である人物が、遺族や大衆からの憎悪を一身に受けている中で、これに類する言葉を口にしたらどんな反応があるか。炎上、という言葉で済むだろうか。

ネットでは「頭無惨様」という言葉も

 もともと、そのキャラクター性から「小物界の大物」、「パワハラ上司」等、ろくでもないあだ名をネット民からつけられてきた無惨であったが、この言葉でさらに盛り上がったネット民により、このシーンを改変したコラージュが多数作られるなど、大きな反響を呼んだ。あの場でこの言葉を発する、まさに無惨を象徴するシーンだ。

最終巻発売時には長蛇の列が ©AFLO

 ネットで「頭無惨様」という言葉も生まれるくらい、ユニークな思考回路の持ち主の無惨であるが、まさにこのシーンはその最たるものと言っていい。別に炭治郎らを挑発する意図ではなく、純粋に本心を吐露したかに見える。絶対的強者であり、他者の意を介する必要のない無惨だからこその言葉とも言えるが、作中の過去描写から元からこうだった可能性も窺える。

ADVERTISEMENT

炎上常習者・鬼舞辻無惨

 無惨打倒を目指す側の鬼殺隊は、隊士の多くが鬼によって肉親を殺される理不尽に遭い、それを許さないという「想い」によって千年間続いてきた組織だ。そういった想いの永続性を否定した無惨だったが、最期にはその想いの前に敗れ、想いの強さを歪んだ形で認めることになる。

 だが、この言葉を思い出すと、想いが千年も続いてきたのは、この言葉のように無惨が無意識に火に油を注ぎ続けてきたからではないか、という疑念が拭えない。ネットで炎上を絶やさないインフルエンサーたちのように。そういう意味では、無惨はネット民からいろんな意味で愛されるキャラクターなのだろう。

『鬼滅の刃』22巻の表紙を飾った鬼舞辻無惨

悪役にとっての理不尽

 ちょうどこれを執筆していた12月15日、ドワンゴとピクシブによるネットでもっとも流行った単語を表彰する『ネット流行語100』が発表されたが、その年間大賞に「鬼舞辻無惨」が選ばれた。やはり、この言葉も含めて無惨がネット民に与えたインパクトは大きかった、という推測は間違いではなかったようだ。

 さて、近年稀に見る印象深い悪役を貫きネット民に大きなインパクトを残した鬼舞辻無惨。だが、よりにもよって『鬼滅の刃』連載完結頃に再発見された『連ちゃんパパ』の展開に衝撃を受けたネット民から、「(『連ちゃんパパ』主人公の日之本進より)無惨様の方がマシ」と言われるなど、悪役としての理不尽を受けることになるのだが……。

『鬼滅の刃』の“理不尽な常習炎上者”鬼舞辻無惨の炎上ワード

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー