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極北で全身が凍りつく家族愛から、新世界アメリカの怪物まで――桜庭一樹のベスト・オブ“悪夢の映画”3選!

2021/01/15

source : ライフスタイル出版

genre : エンタメ, 映画

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新大陸の土壌が怪物を生んだ 『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』

 子供のころ、あなたは“IT(それ)”をとても恐れていた。でもある日、仲間と力を合わせて“IT”をやっつけ、大人になった。そして若い日々を夢中で過ごし、気づけばもう中年だ。

 ゆっくりと穏やかに老いていくあなた。だが、そんなあなたのもとに、ある日“IT”は戻ってくるだろう。

“IT”とは――子供のころ怖かったアレやコレのこと。たとえば、死の恐怖、圧倒的な孤独、未来が見えないこと……。あぁー、また奴がやってくるのか!

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 この作品は、スティーヴン・キングの小説『IT』(文春文庫)を映画化したものだ。原作では、1957~58年を舞台にした過去編と、1984~85年を舞台にした現在編が交互に描かれている。過去編では少年少女が力を合わせて怪物と戦う。そして現在編では、再び現れた怪物を倒すため、大人になった彼らが町に戻ってくる。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』2017年、アメリカ。監督:アンディ・ムスキエティ、出演:ジェイデン・リーバハー、ビル・スカルスガルドほか イラスト・純頃

 映画のほうでは過去編のみ描かれている。現在編は続編のほうで観られる。

 過去編の見どころは、ピエロに赤い風船など、いかにもアメリカンな怪物の出血大サービス! それに、開拓、町の発展、KKKなど、新大陸のさまざまな土壌が怪物を生んだ原因なのだとわかるワクワク感もある。あぁ、キングの作品は“新世界アメリカの民俗学”なんだなぁ。

人生のリスタートには気の合う仲間が必要なのだ

 さて、この過去編で、主人公たちは通過儀礼的な戦いを終えて大人になるのだが、現在編のほうでは、中年になり、中年の危機(ミッドライフ・クライシス)を迎えている。そのため、再び怪物を倒す(=二度目の通過儀礼)必要に迫られて集まるのだ。

 原作で、そろって中年男性になった元少年たちが、「また(怪物を)やっつけられるよ」「そうとも、ビル」と気弱に励まし合うシーンが、わたしはとても好きだった。人生のリスタートには気の合う仲間が必要なのだ、と。

 個人的には、映画→原作→映画の続編の順番で楽しむのがお勧めです。ぜひ!

桜庭一樹(さくらば・かずき)
1999年「夜空に、満天の星」(『AD2015隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』と改題)でファミ通エンタテイメント大賞に佳作入選。2003年開始の〈GOSICK〉シリーズで多くの読者を獲得し、04年に刊行した『推定少女』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が高く評価されて注目を集める。07年に『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年に『私の男』で直木賞を受賞。他の作品に『荒野』『ファミリーポートレイト』『伏 贋作・里見八犬伝』『ほんとうの花を見せにきた』『じごくゆきっ』『小説という毒を浴びる 桜庭一樹書評集』などがある。

桜庭一樹のシネマ桜吹雪

桜庭 一樹

文藝春秋

2021年1月14日 発売

極北で全身が凍りつく家族愛から、新世界アメリカの怪物まで――桜庭一樹のベスト・オブ“悪夢の映画”3選!

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