どん底、最悪、絶望。
最近の日韓関係を指して飛び交う言葉だ。2018年10月、韓国大法院(最高裁)は日本企業に対し、元徴用工らへの損害賠償を命じた。判決が執行されれば、1965年に締結された日韓請求権協定は破壊される。日本と韓国は報復措置の応酬に陥り、更に深刻な事態に至る。
日韓両当局はここに至り、水面下でどんな動きを示してきたのか。「文藝春秋」1月号に寄稿した「徴用工問題『日韓 秘密交渉』の全貌」でつまびらかに明らかにした。そこから浮かび上がったのは、韓国の独善的な手法と、日本の冷ややかな反応だった。
外交省を全く信用しない青瓦台の独善主義
秘密交渉の核心は、韓国大統領府(青瓦台)の朴哲民外交政策秘書官(現ハンガリー大使)と外務省の滝崎成樹アジア大洋州局長(現官房副長官補)による接触だった。「文藝春秋」では今年9月の菅政権発足後の動きに焦点を当て、両者の接触は10月11日、同28日、11月19日の計3回に及んだと説明した。ただ、接触自体は安倍政権時代の今年夏ごろには始まっていた。朴秘書官は新型コロナウイルスの感染拡大による入国制限が緩和されて以降、日本を何度か訪れている。
取材していて不思議に思ったのは、青瓦台が日本外務省と接触しているという構図だ。元々、滝崎氏は韓国外交省の金丁漢アジア太平洋局長と定期的に協議している。青瓦台が出張るなら、相手は首相官邸となるはずだった。どうして、こんないびつな構図に陥ったのか。
理由のひとつは、韓国外交省を全く信用しない青瓦台の独善主義だ。
大統領制の韓国では元来、青瓦台に権力が集中するが、文在寅政権ではこの傾向が一層ひどくなっている。2018年に南北と米朝の外交が活発化したころ、当時青瓦台の鄭義溶国家安保室長が極秘で訪米した。鄭氏は在米韓国大使館にも米国行きを通報せず、接触したホワイトハウスや米国務省に「私が訪米したことは、韓国外交省には秘密にしておいてほしい」と伝え、米側の失笑を買った。
国家安保室は外交省から情報を吸い上げるだけで、自分たちが得た情報は共有しない。もちろん、朴哲民秘書官と滝崎局長との協議の内容も外交省に説明していない。