安倍晋三 首相
「いちいち答えることは控えたい。(訪米からの)帰国後に判断したい」

日本経済新聞 9月18日

 3年ぶりの衆院解散が行われる見通しとなった。28日に召集される臨時国会冒頭で解散を行い、10月10日公示、22日投開票という日程になると見られている。18日午後、渡米直前、記者団の質問に対し、「帰国後に判断したい」と言及を避けた安倍首相だが、15日午後の時点で自民党の二階俊博幹事長に「近く解散します」と明言していたという。

 メディアが一斉に解散について報じたのは、自民党からの膨大なリークがあったからだ。「今が絶好のタイミング」と記者に吹聴する議員もいた(『週刊文春』9月28日号)。首相は25日に記者会見を行い、解散に踏み切る理由を説明する方針。

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 民進党など野党4党は6月22日に、憲法の規定に基づいて臨時国会召集を求める要求書を提出していたが、政府・与党はこれまで召集に応じてこなかった。ようやく召集したと思ったら、冒頭で解散だ。臨時国会の冒頭で、首相の所信表明演説が行われることも検討されていたが、野党が質疑を求めること、政府が「言いっぱなし」で解散することへの批判を避けるため、所信表明演説を断念した(毎日新聞 9月22日)。

 森友・加計問題のみならず、あらゆることに関して「そのつど真摯に説明責任を果たしていく」「丁寧に説明する努力を積み重ねていかなければならない」と安倍首相が語ったのは前の国会が閉会した折の記者会見だったが、その約束は反故にされた(NHK NEWS WEB 6月19日)。「結果本位の『仕事人内閣』であります」と発足した再々改造内閣もわずか3ヵ月足らずでお役御免である(日テレNEWS24 8月3日)。

 解散報道を受けて、政府と安倍首相に対して「大義なき解散」(日本経済新聞 9月18日)という批判が相次いだ。

 東京都の小池百合子知事は「何を目的になさるのか、大義ということについては分からない。国民に何を問い掛けていくのかが私には分かりにくい」と批判(時事ドットコムニュース 9月18日)。自民党の山本一太参院議員は「有権者の憤懣は(短期間のうちに)自民党に対する爆弾低気圧にまで発達する可能性がある。この事態を避けるためには、よほど説得力のある大義名分が必要だ」とブログに記している(9月19日)。河野太郎外相の父で元衆院議長の河野洋平氏は、「国民に一度も丁寧な説明もせず冒頭解散は理解できない」「議会制民主主義の本旨を踏まえて議会運営をしてほしい」と苦言を呈した(毎日新聞 9月20日)。

 愛知県の大村秀章知事は「北朝鮮問題が緊迫するなか、政治的空白を作っていいのか」「議論の場を作らず解散で選挙となれば、これまで言っていたことはうそだったということか。疑惑隠しと言われても仕方ない」と強い批判を行っている(朝日新聞 9月19日)。政治評論家の森田実氏は「これほど国会を軽視した首相は記憶になく、もはや国会無視だ」「支持率急落前の傲慢さが戻ってしまった」と批判(毎日新聞 9月20日)。政権に近いと言われる読売新聞も、社説で「首相は、衆院選の意義を丁寧に説明することが求められる」「政権の驕りと緩みが問題視されており、決して楽観はできまい」とわざわざ「丁寧な説明」という言葉を使って釘を刺した(9月19日)。「真摯」と「丁寧」をかなぐり捨てた、「驕りと緩み」の解散劇だということか。

 さまざまな批判に対して、菅義偉官房長官は「国会軽視との指摘は全く当たらない。安倍晋三首相は『帰国後に判断したい』と述べており、これに尽きる」(毎日新聞 9月20日)と“安定のガースー”ぶりを披露。ちなみに菅官房長官は今回の解散に強く反対していたという(『週刊文春』9月28日号)。