アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』が12月25日に公開された。原作は36年前の田辺聖子の小説で、17年前には実写化もされた。今回のアニメ映画(以下、本作)は『ジョゼ』の3つ目のバージョンとなる(注1)。

 これら3つに共通する部分は多い。生まれつき足が不自由な女性・クミ子。同居する祖母は彼女を案じるあまり家に閉じ込めている。そこに健常者の大学生・恒夫が奇妙な縁から関わるようになり、クミ子はやがて自らをジョゼと名乗り始める。あやうい恋を営むジョゼと恒夫。そしてジョゼから見た外界の恐怖の象徴として登場する虎……。

 一方で、結末は各々違う。原作ではジョゼは歪な関係性の中に束の間の幸福を見出す一方、破局の予感もはっきりと持っている。実写では恒夫が親に結婚を言い出せず、やがて逃げるように去る。

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 対して、本作の2人は幸せなキスで結ばれる。その後も関係は更に深まっており、完全なハッピーエンドである。

アニメ版『ジョゼと虎と魚たち』公式サイトより

ツッコミどころが多いアニメ版

 やはり現実には、恋愛や結婚においても障害がハンデになり得るという事実を、当事者の多くが大なり小なり感じさせられるものだ。これは脳性麻痺を持つ筆者の実感でもあるし、視覚障害者の友人も婚活で大苦戦しているという。彼は多くの結婚相談所で入会すらなかなか認められず「お金をドブに捨てるようなものですよ」「障害をお持ちでなければ、それ以外の条件的には引く手数多なんですけどねえ」等と言われた経験もあるそうだ。

 原作も実写も、そうした肌感覚にぴったり合う。参考のために障害を持つ女性達に意見を伺った際も、リアリティや共感性の面で「実写は非常に高く評価できる」との答えだった(注4)。一方で本作に対しては「現実味に乏しい」との評価で、筆者も同意見である。ツッコミどころが多過ぎるからだ。

 だが本稿では批判を一点に絞る。すなわち、観客の居心地を悪くしそうな要素を排除する努力が行き過ぎて、物語の屋台骨までをも取り除いてしまった点だ。

注1……厳密に言えば今回の版にもアニメ映画・雑誌『ダ・ヴィンチ』上の連載・単行本の3通りがあるが、その違いは僅かなため、本稿ではそれらを全て同一の内容とみなし、「本作」と呼ぶ。