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障害者にまつわる物語はこれからどこに向かうのか

 この思想はまだまだ根強く残り続けると考えられる。障害者の恋愛の描かれ方にしても、まず先に純愛のニーズや主題があり、あくまでそのスパイスとして障害が要請される、という機序は当面変わるまい。

 つまり現実の障害者やそれを取り巻く状況への興味から創作が導かれる訳ではないため、不勉強だったり腹が立つような表現は今後も登場し続けるに違いない。また、田辺聖子による原作が出版されてからの36年間を振り返っても、障害者にまつわる物語は複雑さを許容されるどころかむしろ退化しつつあるようにも見える。

 だが創作表現と現実社会は互いに影響を及ぼし合っている。その事を忘れ、社会状況を問うことなく、責めを全て表現者に帰せば「そういう面倒なことを言われるから障害者を出したくなかったんだよ」と言われるのがオチだ。

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 今はまだ創作に登場するだけでも歓迎せざるを得ない段階にある。これから我々は気の遠くなるような時間をかけ、たとえ凡庸なものであっても障害者表象を蓄積していかなければならない。量をストックし続ける事が、優れた表現を芽吹かせるための土壌となる。

アニメ版『ジョゼと虎と魚たち』予告編より

 その先の遥か未来、豊かな物語が障害者からも健常者からもたくさん現れていくだろう。そして最終的には、障害者が何の理由もなく出てくるようになる事を願っている。

 最後に、本作の白眉と言える箇所を紹介しておきたい。

「ずっと届かんかった 屋根に引っ掛かった赤い風船にも 木にくっついとるセミの抜け殻にも 雨の日に水玉の傘さして歩くのも 神社の階段駆け上がるのも  全部…」

 車椅子に乗る者の実感を見事に掬い取っている。絶望を語る言葉でありながらハッとする程美しい。このジョゼの台詞だけで、本作が世に出た意義はあった。

 

注4……以下の3名の方には取材を通じて様々な有益な視点をいただいた。この場を借りてご紹介すると共に心より御礼申し上げ、謝辞に代えさせていただく。
★東佳実(あずまよしみ)様…障害者をサポートする相談支援員で、自らも電動車いすで暮らす20代の女性。
★高田裕子(たかだゆうこ)様…車いすユーザーで、恋愛・結婚の経験を持つ50代前半の女性。
★K.M様…電動車いすユーザーの女性。健常者に囲まれ自らの障害をさほど意識せずに育った。現在は都内で事務の仕事をしている。