2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織が、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂に、インスリン製剤を大量投与するなどして、植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。

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中国からの送金依頼

 捜査関係者が当時の状況をこう説明する。

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「茂氏が入院してから1ヶ月ほどたった頃、病院から茂氏の脳障害の原因は外部からの大量のインスリン投与の疑いが濃い、という連絡が密かに入った。そうなると“事件”だ。だから極秘で捜査体制が敷かれた。それにしても、誰が何時、大量のインスリンを投与したかだ。当然、妻である詩織に疑惑の目が向けられる。そんなこともあり、とりあえず農協のお金など、一切第三者が下ろせないよう、茂氏の親族が措置をした」

 野菜や米を売ったところで得られる金は知れている。詩織は、いよいよ追い込まれていった。中国の家族に電話をしたのは、そんな急場を相談するためだったのかもしれない。しかし、結果は逆だった。

〈私は、しばらく両親に電話をしていなかったことを思い出し、国際電話をかけ、近況を聞きました。家族に、そう大きな変化はありませんでしたが、母はいままでにない口調で、こういいました。

「あなたは2人の息子をあなたの姉さんに預けたままでしょう。私も多くは言いません。でも、少なくとも、子どもの生活費位は送ってくるべきです。昨日、姉さんがお金を借りにきました。知っているの?」

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「知らない」

「姉さんには中学生になる子どもが2人いるの。さらに2人を面倒みるとなると中国の家庭ではどれほど大変か、あなたもわかるでしょう。姉さんは、すでにおばさんからお金を借りているようで、これ以上借りるのは恥ずかしいからと、私のところにきたの。

 それでも姉さんは私に、あなたにはその事を教えないようにと頼んでいった。でも私はあなたも知っておくべきと思った。どうすべきかは、あなた自身が考えなさい。茂さんが入院して大変なのはわかるけど。高望みはしないから、子どもの生活費だけは姉さんにきちんと送りなさい。

 あなた自身も体に気をつけて、苦労しすぎないようにね。誰もあなたのそばにいないけど、体を大事に頑張って。それから目の前のことだけに捕われず、もっと長い目で考えなさい。あなたは、まだ若いのだから。

 もし今日のこと(茂とのいざこざと入院)がわかっていれば、初めから日本になど行かせなかったのに。日本に行かせたのは、あなたを楽にさせてあげたかったからなのに。それにしても亮さんのことは忘れられません。性格が良くて快活だったのに、あんな若くて死んでしまうなんて。本当に残念。本当に……」