「男の物」を洗う
風俗嬢本格デビュー時の話に戻ろう。
〈この店の最も重要なことはサービスです。まずお客さんの体を洗います。それも全身をです。胸、お腹、そして股の間にある「男の物」もです。手がひとりでに抗ってそこを避けようとします。あるいは脳が命令を下して洗わせないのかもしれません。手が「男の物」を迂回し横から両太腿、そして足へと下りていきました。そして立ち上がって手を洗います。でも、もっとも重要な部分には触れずじまいです。この手は、あたかも、そこに棘でもあるかのように、周りだけをかすめて、既に洗った部分をまた洗ったりしています。そこに触る勇気がないのです。
この客に店長は私を「今日初めての新人で、あなたが最初の客だ」と紹介しました。だからなのか、お客さんは私の手がうろうろ周りをさすっているのを眺め、おかしくて堪らない感じで、いたずらっぽく眺めています。〉
詩織は、そのいたずらっぽい目で射抜かれ顔を真っ赤にした。あきれた客が自分で洗いはじめたので「ごめんなさい」と謝ると客は「ハッ、ハ、ハ」と笑った。
〈自分は今後とも、この仕事を続けようと決意しています。短時間で高収入が得られるからです。でも、客の「物」を避けて周りをこすっているようではだめです。人様から、お金をもらうからには、相手の望むことをやらねばなりません。お客さんには満足してもらわなければならないのです。プロに徹しなければなりません。いつまでも、その「物」を避けていては高収入を得ることが出来ないし、サービス第一のこの店に住み着いてはじめて私の足場が固められるのです。では、どうすればあの「物」に立ち向かうことができるのでしょうか。〉
「そうだ、茂さんを洗ってあげていると思えばいい!」
詩織は発想の転換に気づく。最初は自分の子どもたちのものを洗ってあげると考えればいいと思った。しかし、お客の「物」は息子たちの「物」ほど可愛くはない。そこで思い出したのが、茂の入院中、彼の全身をくまなく洗ってあげたことだ。「そうだ、茂さんを洗ってあげていると思えばいい!」そう考えると客の勢り立った「物」にも不思議と抵抗感がなくなり、指名客も増えるようになったという。
〈このように1日1日が過ぎていきます。客の人気と指名は私が笑ったり、愛嬌をふりまいたり、言葉が上手だからではありません。それ以上に私が美人に生まれたからでもありません。それらの要素はむしろ私の弱点です。そして避けるべき話題です。
では何で指名が多くなったのでしょうか。私は健全な肢体を持ち、身長は158㎝、バスト88㎝、ウエスト57㎝、ヒップ88㎝。比較的小柄で美人ではないですが年齢よりは若く見える顔と豊かで長い髪を持っています。こうした容姿は、なぜか、日本の男性に喜ばれるようです。それは服を脱ぐと、こわばってピンと張った乳房。平坦な小腹には妊娠線も見えず、細くて柳のような腰、均等な太腿、さらに股間に張り出している野性的な漆黒のヘアは、疑いもなく、客の欲望を搔き立てるのに十分で、彼らの性欲を絶頂へ容易に導くことができたのです。プラス私には誰にも負けないほどのサービス精神がありました。〉
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