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「酔ってしまいたいけど、どうしても酔えない」 中国人妻が風俗嬢へと転落した“末路”

『中国人「毒婦」の告白』#18

2021/01/07

 2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織が、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂に、インスリン製剤を大量投与するなどして、植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。

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酒に溺れる日々

 しかし、そうした多くの指名と裏腹に喪ったものもある。千葉時代、詩織がいちばん多く言われたのは「君の笑顔は可愛い」という言葉だった。しかし、東京に出て以来、「笑わない女」になってしまった。無理して笑おうとすると、悲しみが胸に押し寄せ、息苦しくなってしまうのだ。また女としての快楽を得たいとも思わなくなっていた。

 最初のころは、浅草から千葉の旭市にある病院まで茂の看病のため定期的に戻っていた。しかし、普通電車で片道3時間、病院で必要な日用品を買ったりしていると、合計で8時間かかった。店に帰ってから夜更けまで働くと、寝られるのは2日に一度。精神も肉体もギリギリまで追いつめられていた。

 そんな詩織の唯一のなぐさめは、深夜の酒だった。仕事が深夜1時に終わり店を閉めたあと詩織は店長と一緒によく飲んだ。店長は女性にまったく興味をしめさない50歳代の男性。ともに住み込みで、それぞれ部屋を貸してもらっている状況が同じだけで、特段気心が知れているという訳でもない。だから、2人1緒に酒を飲んでいても、プライベートな話などしない。ただひたすら酒に飲まれるように黙々と飲む。ときには、外に出て、はしご酒をすることもある。その時も、狂気のように飲み続け、飲み疲れると住み込みの部屋にもどり、死んだように寝る。店長も「おやすみ」を言うのももどかしそうに、自分のねぐらにもぐりこんでいく。それは傷ついた獣が、互いの傷口を舐め合うのに似ていた。

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 だが、いくら飲んでも心の空洞は埋まらず全身に脱力感が増すばかりだった。胸には大きな石のような硬くて冷たいものが引っかかっていて、息もできないほどだった。半酔半醒の中で詩織は茂のことを考えることもあった。病院にいる彼はいま、どんな状況なのだろうか。病状は好転しているのだろうか……。