錦織選手の中で共感できるのは、メンタルサイドのものだけ。それは、僕がどうやったら自分の弱い部分を前向きにとらえられるかというところをずっと研究していたからこそなんですね。そういう弱さを前向きに変換する方法を“応援”を通じて多くの人に伝えていくことが、いまはとっても面白いです。
実は、もともとはネガティブな性格だった
ーー今回の本で驚いたのが、《根は消極的で弱くてネガティブな人間》とお書きになっていることです。「根は」とありますから、ベースでネガティブ。それを変えた、もしくは表に出さないように心掛けたのはいつぐらいからですか?
松岡 実践的な面でいうと、テニスでプロになって海外のメンタルトレーナーと交流をするようになってからですね。弱い部分を持っていても、それを前向きなものに変換というか表現してしまう。
でも、これはみなさんもやっているはずだと思います。たとえば、受付の人なんて、まさにそうじゃないですか。どんなに疲れていても、笑顔で「おはようございます!」と言う。遊園地のキャストの方々は、それを極めている。
僕からしたら完璧なポジティブ思考法ですね。いつも心のなかがあんなに元気なわけがないですもの。でも、その時は元気だし、彼らと触れ合った人たちも元気になる。それはすごく大事なことだと思います。
ーーいまや「熱い男」といえば松岡さんの顔が思い浮かびます。そうしたパブリック・イメージが、どのあたりから定着したとご自身で思いますか。
松岡 “熱い”というものが“応援”だとすると、1996年の第36回フェドカップで伊達公子さんを応援した時ですかね。伊達さんが、世界ランキング1位だったシュテフィ・グラフに勝利した大会です。まだ僕は現役でしたけど、あの頃からそうしたイメージがついてきたのではないかと思います。
ただ、“応援”に関しては昔から同じです。メディアに出ることが多くなったことによって、そもそも僕が持っていた“応援”の表現が皆さんに“熱い”ものとして伝わっていったのではないでしょうか。
ーー「僕自身は変わってないのに、そういうふうに思われてしまう」みたいな戸惑いを抱いたりは……。
松岡 それはないですね。僕にとってけっしてマイナスな要素ではないですから。周りが元気だと思ってくれているから、僕も自然と元気になっていくことって実際あるんです。勝手に僕がみなさんからプラスのエネルギーをもらっている感覚なんですよ。ただ、自分では熱いとは思っていませんし。言ってみれば、やはりネガティブですから。みなさんが良い意味で勘違いしてくれていると思います。