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「もうここを使わなくなるんだな…」戦力外通告を受けた巨人の“第83代四番打者“がベイスターズで手に入れたもの

2020/12/29
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迎えたトライアウト 試合後のロッカーに戻ると着信が…

 そして2018年11月13日、福岡・タマホームスタジアム筑後で12球団合同トライアウトが行われた。中井は、成瀬善久から右中間へのツーベースヒットを放つなど3打数1安打2四球とアピールに成功した。「やりきった」と中井はすべてをぶつけることができた。

 朗報はすぐに届いた。トライアウト終了後、ロッカーに戻ると、携帯電話に着信があった。見慣れない番号。通話ボタンを押すと電話口に出たのはDeNAの編成部長である進藤達哉だった。要件は、ぜひ獲得したいという旨だった。中井は、一番最初に連絡をくれたDeNAに世話になることを迷うことなく決めた。

電話は1998年の優勝を知る男、進藤達哉からだった ©文藝春秋

 トライアウトにおける選手獲得は、その時点におけるチーム状況が深く関係してくるのは言うまでもない。当時DeNAとしては、層の薄かった内野の選手と勝負強い右の代打を必要としており、中井は補強ポイントと合致した。また若い選手の多いDeNAにあってキャリアのある中井は貴重な存在であり、また内外野守れるユーティリティー性はバックアップとして最高の人材だったと言える。こうして中井は求められるようにDeNAに入団した。

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人生初のピンストライプのユニフォーム「脚が長く見えていいっすね」

 翌年のキャンプ、中井は人生で初めてピンストライプのユニフォームを身にまとった。当時「変な感じですけど、ワクワクしますね。ピンストライプは脚が長く見えていいっすね」と、中井は笑顔を見せ嬉しそうに話していた。

 環境が変われば、考え方は変化する。考え方が変化すれば、行動はおのずと変わってくる。拾ってもらった恩義を感じていた中井がまず考えたのは、このチームで自分はいかに勝利に貢献できるか、である。とにかく求められることをしようと、監督やスタッフの言葉に耳を傾けた。だが、ちょっとだけ中井がイメージしていた状況とは違っていた。

「ラミレス監督をはじめ、当時キャプテンの筒香(嘉智)などたくさんの人から『野球を楽しもう』って言ってもらったんです」