「死んだ身にもかかわらず拾っていただいた。だから、できるかぎりチームに貢献したいんですよ」

 横浜DeNAベイスターズの中井大介は、実感を込め噛み締めるようにそう語った。事実、一度は生きる道を失っているだけに、その言葉には重みが感じられる。

「余力」を残した選手にやってくる「戦力外通告」

コロナ禍で揺れた2020年。プロ野球には新入団選手と退団選手が交差する季節が訪れている ©文藝春秋

 プロ野球界において、自ら引退を選択し、惜しまれながら去っていくことのできる人間は、ひと握りしかいない。多くの選手たちが余力を残したまま、所属球団から戦力外通告を受け、自分自身の晩節を決めなければならない。これを機会に引退する者、または別の道へと進む者がいるわけだが、多くの選手たちが野球を諦めることができず、一縷の望みを賭け12球団合同トライアウトにチャレンジをする。

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 だが、それは狭き門であり、例年NPBの球団から声が掛かるのは数名しかいない。またトライアウトを経て入団したとしても、満足のいく活躍のできる選手は稀だといっていい。近年では西武を戦力外となり巨人に入団した石井義人や中日からヤクルト入りした森岡良介、ダイエー(現ソフトバンク)に拾われベストナインになった宮地克彦、巨人、DeNAと2度の戦力外を経て楽天で中継ぎとして防御率1点台を記録した久保裕也などが新天地でもうひと花咲かせている。

 トライアウトを経てDeNAに入団した中井は大活躍とはいかないまでも、チームに加わったこの2シーズン、ほぼ1軍に帯同され、なくてはならない貴重なバックアップとしてチームを支えている。

横浜では欠かせないユーティリティープレイヤーとして活躍している ©時事通信社

「自分がやれることは何なのか。チームに求められることは何なのか。模索しながらのスタートでしたし、今もそのことについて考えていますね」

 中井からは謙虚さがにじみ出ていた。