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「ここまで来ればしゃべらなあかん…」小沢事務所裏献金事件で暗躍した政商・水谷功が生前にこぼした本音

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #2

2021/01/05

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

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「でもね、水谷建設にとって、私のところなんか、新参者ですからね。取引の金額も知れてる。たまには1台1000万円を超える重機を扱ったこともある。けど、何十万のときもあったしね。それらの取引は、水谷さんから買うたやつを海外に売る単純売買です。その際、たとえば水谷さんから500万円で機械を買うても、300万円分の領収書しかくれへん。この差額の200万円が、裏金といえば裏金なんです。でも、それをどこに使うかなんか、聞くほどこちらも野暮やないで。だから、その先はわからへんよ。金額は言えへんけど、うちを使った裏金言うても、本人のカジノの負けより少ないのと違うやろか」

 小沢事務所に対する裏献金については知らない、とあくまで関与を否定する。

「インターネット(の情報)で初めて知った。検察からもそれは聞かれへんかった」

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裏金のマネーロンダリングに使っていたカジノ

 佐川は水谷建設との取引について、単純な重機売買という。が、それを水谷の裏金づくりに利用された側面を否定はしない。佐川は、ギャンブル好きの水谷に誘われ、しばしば海外のカジノ賭博にも付き合ってきた。

©iStock.com

「マカオには行ったことがないけど、たしかに韓国にはよく行きました。向こうに行くときの水谷会長はファーストクラスの飛行機に乗り、空港に着いたら出迎えがいて、食事もホテル代も全部タダのVIP客でした。それも当たり前で、一晩に7000万くらい負けるんやからね。水谷さんは破壊的な博打をやる人でした」

 カジノが裏金のマネーロンダリングに使われている様は、前述したとおりだ。

 佐川が東京地検の事情聴取を受けた09年夏、特捜部は20人以上のゼネコンや重機取引の関係者を次々と地検に呼び出し、捜査を進めた。このころから、捜査の照準を建設業界から小沢事務所に渡った裏金に定めていた、と見て間違いない。

 折しも、水谷建設から小沢事務所への裏献金があった04年から05年にかけての時期が、佐川と重機売買を繰り返し、カジノに頻繁にでかけていたのとときを同じくする。東京地検特捜部は、重機取引が裏金の出どころの一つだと睨んだ。そうして地検がたどりついたのが、水谷功からの「1億円裏献金供述」なのである。

綿密な調べをもとに尋問を繰り返した東京地検

 09年9月に入り、特捜部は三重県津市の刑務所で水谷功に対する出張尋問を繰り返した。脱税事件で取り調べたもともとの担当検事はあの前田恒彦だったが、その後、大阪地検に戻り、厚労省の郵便不正事件を手掛ける。最終的に前田は、小沢事件の大久保を取り調べるべく、2010年に東京地検に応援に駆け付けるが、この年はまだ厚労省元局長、村木厚子の事件の捜査や公判対策に追われていた。

 津の三重刑務所に出張尋問にやって来たのは、東京地検特捜部の女検事だ。

「あそこまで調べられていたら観念する以外にないやないか」

 当人が周囲にそう語ったほど、東京地検特捜部の取調べは綿密だったという。水谷功は女検事に次のように供述した。

「大久保さんなんかに邪魔されなければ、よかったんです。そうでなければ献金なんかせんでよかった」