多額の献金をする見返りとは?
ただし、この水谷供述には、額面どおりに受け取れない疑問も残る。裏金といえども、本来は利益の一部に過ぎない。建設会社は事業で稼いできた利益のなかから、裏金をひねり出す。たとえば重機取引の場合でも、減価償却して帳簿価格がゼロになったブルドーザーが5000万円で売れたなら、5000万円の特別利益として計上すればいい。その利益が課税対象になるだけだ。逆にあまり利益の出ていない会社なら、裏金をため込む余裕などない。裏金は、稼いでいる会社が、税金を払いたくないからおこなう帳簿操作である。おまけに、それを自由に使える。
半面、裏金といえども利益の一部を削って政界工作に転用するのだから、それ相応の見返りがなければ、意味がないわけである。あくまで裏献金の目的は、献金以上の利益確保であり、水谷が下請け工事に入るために小沢側に1億円使ったとすれば、これだけの献金をする見返りがあることになる。それは何だろうか。
「普通、下請けに裏献金を負担させる場合、たとえば1億円ならそのあとの税負担も含め2倍の2億円程度の利益を相手に上乗せしてやる。だから、元請けが献金を知らないケースは考えにくい。つまり、業界を取り仕切る鹿島や小沢事務所、それに裏金づくりを担う水谷、すべて納得ずくでないと裏献金は成り立たないのではないでしょうか」
業界歴50年の東急建設元顧問の石田は、そう指摘する。裏金のつくり方が、重機取引であろうが、水増し工事だろうが、その目的に大した違いはない。つまるところ、水谷建設のような下請けが裏金を払っても、それ相応のリターンがないと無意味だ。そのために損をしないよう、建設業者が高い落札率で工事を受注する必要がある。たいてい政界も含めた工事の関係者が、みなそれを承知のうえで、受注工作がおこなわれる。裏工作のための資金は、そうして建設談合のシステムそのものに組み込まれてきたのである。続けて、石田がこう補足説明する。
小沢事務所への裏献金を行った理由
「胆沢ダムの受注業者を見ると、元請けは90パーセントを超える落札率になっている。その下請けに水谷のような裏金工作に適した業者が入っています。典型的な談合であり、受注業者は出来レースで決まっていたと思われます」
やはり、小沢事務所への裏献金は、水谷建設が東北の談合組織に組み込まれているか、あるいはそこへ食い込もうとした行為の一環である可能性が高い、というのだ。
業界サイドの仕切り役である鹿島建設と東北6県に「天の声」がおよんだ建設業界に対する小沢一郎。その懐にいかに潜り込むか。水谷は、政界きっての建設族のボスと業界を統べるスーパーゼネコンの両輪に近づくことを考えた。それは東北の大型公共工事の受注に欠かせない最低条件だからだ。そのために得意分野である裏金工作を駆使してきたといえる。