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「ここまで来ればしゃべらなあかん…」小沢事務所裏献金事件で暗躍した政商・水谷功が生前にこぼした本音

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #2

2021/01/05

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

note

談合における裏金の役割

「鹿島建設の下請け工事を受注するため、その邪魔をされないよう、献金しただけだ」

 小沢事務所への裏工作について水谷本人は、私にもそう告白した。それは一応の道理が通っている。

 事実、裏金を運んだとされる時期と下請け工事の受注が、ほぼ重なっている。裏献金が04年10月と翌05年4月の2回。鹿島建設による本体工事の一次下請けとして工事を受注したのが04年10月で、大成建設の下請けに入ったのが05年3月だ。

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 一般に誤解されているかもしれないが、建設業界における裏金づくりは、大手ゼネコンではなく、たいてい下請け業者が担う。裏金づくりは元請けに頼まれるケースもあれば、自分自身の会社が工事を受注する目的で使うこともある。

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水谷独特の計算が垣間見える供述内容

 そこで、関西談合のボス、東急建設の元顧問・石田充治に、水谷供述の真意について尋ねてみた。すると、この供述には水谷独特の計算が働いているのではないか、という。

「元来、政治献金は元請けが要請し、その資金づくりを下請けが担う。双方了解したうえだから、下請けに入れてもらうための献金という話自体が、うさん臭いと言わざるをえません。一方、水谷が鹿島や大成と取引実績がないから、小沢経由で仕事を取りに行った、と言われたら、それは筋が通る。いずれにせよこの場合、小沢事務所に下請けに入れるよう、鹿島への口利きを頼むという民間取引です。もとの発注者である国交省は裏献金とは何の関係もなくなる。あくまで民間同士の取引なのだから、贈収賄は成り立ちません。水谷さんはそれをアピールするため、意図的に邪魔されないようにしたと言っているのかもしれません」

 一見、政界への裏金工作と工事の受注という絵にかいたような汚職話に思えるが、水谷証言にしたがえば、必ずしもそうはならない。もし汚職に発展すれば、水谷は贈賄業者となり、罪に問われる。しかし、裏献金といえども、民間同士の受注・発注なら、贈賄罪を免れることができる。残るは、政治資金規正法違反に加担したという疑い程度でしかない。しかも、水谷が服役中だった09年10月に白状している。つまり、04年10月におこなわれた一回目の5000万円献金は、すでに公訴時効を迎えている。