小6の息子が目指していたのは市内の有名私立中学校で、父親もその学校の出身者でした。父親は息子を自分と同じ学校に入れるため、日頃から厳しい“指導”をしていました。普通であれば、苦手な教科の勉強を見てあげたり、わからない問題を一緒に解いてあげたり……そんなサポートをする親がほとんどだと思います。
しかし、この父親は違いました。息子の勉強がうまくいかないと声を荒らげ、暴力を加える。そしてあろうことか、刃物までちらつかせていたのです。
刃物を向けられながら勉強していた息子
刃物は、最初はカッターナイフでしたが、それがペティナイフになり、最後は包丁になりました。小6の息子は、父親に包丁を向けられながら机に向かい、必死に受験勉強をしていたのです。
エスカレートしていく父親の暴力に対し、母親が止めに入ろうとすると「受験もしたこともないやつがガタガタ言うな」と怒鳴られたそうです。父親は事件の2日前には息子を車で連れ出し、逃げられない密室の中で勉強態度について厳しい説教をしました。その際、息子の足を包丁で切っていたことも分かっています。
そして夏休みも終わりに近づいたある朝――。いつものように包丁を持って“指導”に当たっていた父親は、息子の態度に苛立ち、遂にはその胸に包丁を突き立てて殺害しました。
裁判では、父親は「殺意はなかった」と主張していましたが、判決は懲役13年。そして昨年6月に被告側の上告が棄却され、判決が確定したのです。
裁判にも大きな変化が……
昨年は延期になる公判もあったものの、こうして概ね例年通り、裁判所は動いていました。しかし一つだけ、いつもと違う点がありました。それは、裁判中にその場の全員がマスクをつけるようになった、という点です。
コロナの感染拡大を防ぐため、今の世の中では、それも当然のことと言えます。しかし、私が懸念しているのは、被告人までもがマスクを着用していることです。