そこについては日テレ局員もこう語っている。
「昨今の苦しいテレビ業界において、ゴールデンタイムは各局とも失敗のできない時間帯なんです。だからこそ予算がかからず手堅く視聴率が取れるスタジオもの、すなわちトーク番組やクイズ番組、情報バラエティなどが増えるという流れは確かにありました」
そうなると、そこに参戦する芸人たちに必要な能力は、ネタそのものというよりもコメント力や順応力ということになる。そして、必然的にそういった能力の高い顔ぶれは固定化される。結果的に芸人側は一度そのチャンスを逃してしまうと、なかなか次の機会を得ることができない状況が続いていたのだ。
コロナ禍で変わるお笑いの在り方
そこに『有吉の壁』は一石を投じた。
毎回ロケ地に赴き、ネタを披露するという形式はこのコロナ禍では大変なことも多かったはずだ。
それでも“ひな壇トーク”のスタイルに向いていない職人系の芸人たちにとって、「ネタはどうやってもOKだが、ウケるかはどうかは力量次第」というフィールドは、持て余した力を全力投球できる場所だったのだろう。
いま『有吉の壁』は「芸人が最も出たい番組」といわれているという。
それは「中身を変えなきゃいけないなら、ばっさりやめさせてほしい」(前出・橋本氏)という「笑い」を中心に置いた作り手側の決意に惹かれている芸人が多いからではないか。
コロナ禍で、現代の笑いの在り方も少しずつ変わった。自宅でテレビ視聴をする時間も増え、その結果としてひな壇トークだけでなく、少しずつネタに力を入れた地上波番組も増えてきているように思う。
その転換点となったのが、『有吉の壁』なのかもしれない。