カネとバクチと「群馬の兄貴」
昨今の家畜盗難事件について、群馬県警は10月以降に20人近いベトナム人を逮捕したが、大部分の容疑者は不起訴処分となり釈放。起訴された数人の容疑者についても入管法違反などの別件による起訴となっている。
こうした捜査結果や、前回までの兄貴ハウス訪問の際の証言から考える限り、「群馬の兄貴」一派の家畜窃盗疑惑はシロ(少なくとも証拠不十分)であって、大捕物をおこなったはずの群馬県警の失態は明らかだ。だが、そのことは兄貴ハウスの住人の全員が100%品行方正な人たちであることを示すわけではない。もちろん、なかにはカタギの人もいるのだが、明らかにヤンチャな住民も一定数存在している。
そもそも、兄貴ハウスに強制捜査が入った10月26日に逮捕されたベトナム人の一人・Nは、賭博の借金の返済をめぐるトラブルから同胞を拉致し、自宅(兄貴ハウス)に監禁した容疑が持たれていた。Nは結果的に証拠不十分で釈放されているが、兄貴ハウスに違法賭博をおこなうベトナム人が複数居住し、少なからぬカネが動いていたことは、他の仲間のzaloやフェイスブックの投稿からも明らかである。
豚窃盗疑惑はおそらく濡れ衣だった「群馬の兄貴」についても、感心できる素行の人物ではない。太田市内に住むベトナム人の証言によると、兄貴は伊勢崎市内にあったベトナム人向け飲食店「カラオケ・ハノイ」の雇われ店長のような立場にあり、店内で不法滞在者(≒逃亡技能実習生)のベトナム人たちにポーカー賭博の場所を提供していたという。
工場から逃亡して不法滞在者に
「トゥン君(「群馬の兄貴」)はもともと、悪い人間じゃなかった。タトゥーも入れておらず、髪の毛も普通に伸ばしていた。小柄で優しげな感じの、普通の人だったんだ」
ところで、ちょっとおもしろいエピソードがある。第三者を介した取材で得た情報ではあるが、「群馬の兄貴」ことレ・ティ・トゥンの過去の同僚がこうした証言をおこなっているのだ。かつて彼らは、兄貴ハウスからほど近い場所にある旋盤工場に勤めていたという。
証言によれば、トゥンはおそらく2010年代に入ってから留学生として来日した。日本語学校から専門学校へと進み、なんと合法的な就労ビザである技人国ビザ(「技術・人文知識・国際業務ビザ」)の取得に成功する。その勤務先となったのが、群馬県太田市郊外のある旋盤工場だった。
だが、「兄貴」は仕事になじめなかったらしい。専門学校で身につけたスキルを使う機会は少なく、やがて現在から2年すこし前に技人国ビザを取り消され、短期滞在ビザに書き換えられてしまう。
本来、この手のビザ書き換え処分は珍しいことではなく、行政書士に相談するなどすれば再び技人国ビザに戻すことが可能なケースも多い。しかし、気の小さいトゥンは技人国ビザの取り消しに動揺し、そのまま工場から姿を消して不法滞在者になってしまった。彼本人は技能実習生ではなかったが、結果的には逃亡した技能実習生たちと似たような身分になったというわけである。