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賭博、闇市、豚解体…ナンパアプリと「群馬の末弟」から見えた“ベトナム人アングラ社会”の現実

2021/01/04
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数十人の“ナンパ男”からメッセージ

 今回の取材チームに新たに加わったL嬢は、2016年に不法滞在者のベトナム人男性と交際。当時、太田市郊外の技能実習生寮の庭で開かれた不良ベトナム人たちのパーティーに招かれ、技能実習生の一人が近所の牧場からかっぱらった子豚の丸焼きを振る舞われたという稀有な体験の持ち主だ。

(ちなみに在日ベトナム人による家畜窃盗は、必ずしも組織的な犯行ではなく、過去長年にわたり彼らの間で小規模におこなわれ続けてきた行為だったのが、ベトナム人労働者の急増とコロナ禍による困窮によって新規参入者や窃盗肉の転売者が増加。結果的に日本人にも気づかれるレベルの被害規模になっている──。というのが、『文藝春秋』1月号でも書いた私の見立てである)。

 さておき、そんなL嬢が群馬県の田んぼの真ん中で「Nearby」機能を使うと、近所に隠れ住むベトナム人のナンパ男たちが“置いてけ堀”の魚さながらにどんどん釣れはじめた。

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 半日ほどの間に、メッセージが来たのは数十人、テレビ電話をおこなった人も7~8人にのぼった。通話したうち3人は不法滞在者であり、その他の多くは技能実習生だ(ほかに変わり種として、ベトナム人に車両を売っている日本語ペラペラのパキスタン人が引っかかった)。

2020年12月20日、L嬢がzaloで引っ掛けたベトナム人不法滞在者のナンパ男とのチャット履歴。豚窃盗についてなにか事情を知っていそうな気もするが……?

 隣で様子を見ていると、出会い系アプリで「ダラメ」(だらだらとメッセージのリレーを続ける行為)を続けがちな日本人と違って、ベトナム人男性にはマッチングが成功した瞬間にテレビ電話を掛けてくるアグレッシブな人が多いようである。

奇妙な群馬ブラザーズ

 結果、私たちはzalo取材を通じて、太田市内に暮らす「E Út Gunma」(日本語では「群馬の末っ子」)というハンドルネームの人物を発見する。本人が公開している情報をたどる限り、彼は新田上中町の「群馬の兄貴」のアジト(兄貴ハウス)に居住している。しかも、彼は大量の一万円札を手にした写真をアップロードしていた。

「群馬の末っ子」を名乗るアカウント。兄貴よりもお金持ちそうだ。兄貴ハウスの居住者である。本人のzaloより。

 さらに、さまざまな方法で兄貴ハウスに居住するベトナム人たちのzaloやフェイスブックのアカウントを特定したところ、他の一部住人についても同様の札束写真や、賭博をおこなっている写真のアップロードを確認できた。

 また、前回訪問時には「留置場で蒸れるので頭髪を剃った」と話していたスキンヘッド姿の一団が、本当は自分の意思でスキンヘッドにしていたことも判明した。日本とは違い、中華圏やベトナムにおけるスキンヘッドは(警官や僧侶を除けば)「不良の証」と言っていい。