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「旋盤絶望37歳」が“兄貴”に変わるまで

 それまで真面目なベトナム人労働者だったトゥンが、頭髪を剃り上げ、腕にタトゥーを入れたお馴染みの「群馬の兄貴」姿になったのは、なんと2018年のテト(旧正月)以降だという。同年に37歳になる男性の、遅まきの不良デビューだったのである。

 証言者いわく「悪い仲間」と付き合いはじめたのもこの時期からだった。すなわち、スキンヘッドの博徒集団のことであり、トゥンは調子に乗ってしばしば大規模なパーティーを開くなどしていた(zaloで見つけた「群馬の末弟」も、そうした仲間の一人だったようだ)。

 不良ベトナム人は、フェイスブックの不法滞在者コミュニティなどで、ニセの車検証や偽造の在留カード、飛ばしの携帯や預金通帳、来歴不明(多くは盗難)の果物や肉の転売などを盛んに行っている。なかには、真の売り手は別にいて、フェイスブックに書き込んだ販売情報を通じて顧客が購入するだけで1000円ほどのマージンが入るシステムもある。

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2020年12月末、ベトナム人の不法滞在者が集まるフェイスブックのコミュニティ「ボドイ・グンマ2020」に掲載されていた、偽造らしき在留カードと、トバシの預金通帳の販売広告。オンライン闇市と化している。

 10月26日の逮捕後、「群馬の兄貴」は逮捕容疑である入管法違反や偽造在留カードの使用は認めたが、豚の窃盗についてはかたくなに否認し(他の仲間も同様)、事実として豚の窃盗容疑では立件されていない。フェイスブックで多くのフォロワーを抱える兄貴の「真の罪」とは、せいぜいマージン目的で肉の販売情報を掲載した程度のことだったかとみられる。

 不良キャリア2年目でイキりたい盛りだった彼は、本当は小物なのに悪目立ちしていたせいで、日本の官憲から実態以上の巨大組織犯罪のボスであると勘違いされてしまった可能性が高い。

技能実習制度と巨大な地下社会

 ──さておき、彼らを追う過程で見えてくるのは、令和の北関東の大地の裏側に広がる、ベトナム人アングラ社会の想像以上の広大さだ。

 前回記事でも書いた通り、技能実習制度とは、ベトナムの「情弱」なマイルドヤンキー層の若者を甘言で釣り、低廉な労働力として日本の中小企業に送り込む仕組みである。

 衰退を続ける日本の社会には、マイナス面に目をつむってでも安価な労働力を輸入せねばならない事情もあるに違いない。ただ、2019年まで2年連続で9000人前後の逃亡者を出し続けてきたいびつなシステムこそ、北関東の畑のなかに半グレ層ベトナム人たちの巨大なアングラ社会を作り上げた元凶であることもやはり事実だ。

「群馬の兄貴」一派の摘発にまつわる騒動は、この大いなる矛盾が表社会へと吹き出した最初の事件だったのかもしれない。