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2021/01/17

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

先輩からワザを盗め

「このままじゃまずい」

 情けないことに私はあいかわらず、電話をかける件数もチームで最下位なら、お客さまに入金の約束を守ってもらえる率(履行率)も5割にかろうじて届く程度だった(ちなみに全体の平均は6割強である)。

 片や隣のチームを見てみると、同期入社した美人のA子ちゃんは成績上位者として朝礼で毎日のように名前を呼ばれ、他の同期たちもどんどんと回収数字を伸ばしている。

 成績表を見れば見るほど私は暗くなった。それに新人だからといって甘えていられるほど、私の働くコールセンターには余裕がなかった。どんどん辞めていってしまう社員のせいで常に人手不足。S木先輩のように無茶ぶりの荒療治をしてくれる先輩はいたが、誰も懇切丁寧に新人に教えている余裕はない。

©榎本まみ

 結局、自分でなんとか技術を盗み、這い上がるしかない、と私は悟った。

電話キョーフ症を脱出

「まず、電話をかける件数を何とかしなきゃ」

 私がお客さまに入金の約束を破られてしまうのは交渉のスキルが足りないからだ。でもスキルなんて一朝一夕でそうそう身につくものじゃない。だいたい、ただでさえコミュニケーション力の低い自分は、どもってしまってお客さまとちゃんと話をすることすら危うい。

 そこで私は交渉スキルはおいおい伸ばすとして、まず、電話をかける件数を増やすことにした。

 督促の電話は朝の8時から夜の9時までと法律で決められている。その中でゴールデンタイムと呼ばれるのは朝の8時と夜の8時台だった。お客さまも昼間は仕事をされているので、自宅に電話をかけてお客さまと繋がるのは朝早い時間か夜遅い時間しかない。

 でも、この時間に電話をかけると、

「朝っぱらから電話してくるんじゃねえ!」

「こんな夜中に何考えてるの!?」

 当然のように、こっぴどく怒られてしまう。ちなみに昼間に電話をかけても、

「今仕事中なんだよ! かけてくんな!」

 こんな具合である。八方ふさがり。どうしろって言うんだ。