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2021/01/17

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

(出た瞬間に電話を切られちゃったら、入金のお願いも出来ないよ~)

 頭を抱えうずくまる私。すっかり電話をかけることがトラウマになっていた。

 電話をすることが嫌になると、何度も督促表を見返したり、電話機のボタンを押しては取り消したりと、電話をかける合間にうだうだと時間をかけるようになる。そうするとさらに電話をかける件数が減っていくのだった……。

小さな大発見

 そんな風に仕事をさぼっていると、隣のS木先輩が督促している声が、自然と耳に入ってきた。

「朝早い時間にお電話をして申し訳ございません!」

「夜遅い時間、お疲れのところ申し訳ございません!」

 おや? 先輩はなにやら電話の最初に必ずお客さまに謝っている。それにS木先輩だけじゃない、周りの督促をしている先輩も、

「お仕事中申し訳ございません!」

「申し上げにくいのですが、ご入金の確認が取れていません!」

「度々お電話して申し訳ありません!」

 と、なぜかみんな一言謝ってから話している。

相手の警戒心を解く大切さ

 そうか、人間先に謝られてしまうと、その上さらに怒りにくいのかもしれない。

 お客さまは、督促の電話をかけてくる私たちに、怒られたり嫌なことを言われたりするんじゃないかと警戒心を抱いている、だから怒られる前に怒鳴る。私たちを怒ることで、自分の身を守ろうとしているんだ。

©iStock.com

 だったら私たちの方から先にお客さまに謝ってしまえばいいのだ。先輩たちがやっていたのは、犬がひっくり返ってお腹を見せて服従のポーズを取るように、先に謝ってお腹を見せることで相手の警戒心を解く方法だったのだ。

(なるほど、先にゴメンナサイって言えばいいんだ!) 

 私はピカリと閃いた。そしてさっそく電話をかけて開口一番こう言った。

「朝早くお電話して申し訳ございません! お時間よろしいでしょうか?」

 すると相手も、

「ああ、いいけど……」

 とあっさり承諾してくれた。

 なんだ、こんな簡単なことなの? ぽろぽろと目から鱗が落ちる。今までのあの迷惑そうな反応はなんだったんだ!?

 こうして「先にごめんなさい作戦」を身につけた私は、電話をかけていきなりお客さまに怒鳴られることも少なくなってきた。電話へのトラウマも薄れてきて、やっと電話をかけるペースもなんとか人並みになった。