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〈息子と朝晩一緒にいて、語りあい、笑いあい、日一日と成長するのを見守るのが、私の夢でした。2本の木を育てるように水や肥料をやり、枝を整え、太陽の光をいっぱい浴びさせて大きく成長させ、有為な人間に育てたい。それ以外に今の私は望むものはありません。店長がいて店をまかせることができるようになれば、私は茂さんの看病に病院にいつでもいけるし、2人の息子と一緒に行って世話することもできる。私はずっと、そんな計画を立ててきたし、そのために奮闘努力もしてきました。日本に来てから、ずっと夢見ていた暖かい一家団欒。今、それが現実になりそうなのです。〉

目の鋭い予約客

 そんな夢想をしている時に、最初の予約客が2人、次々にやってきた。それぞれ係りの女性に部屋に案内させ、詩織は中国の姪に電話をした。

「これから、銀行に送金に行くので、次の電話を受けたら、すぐに受話器を置いて、お金を下ろしに行ってね……」

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 その時、3番目の予約の客がドアをたたいた。詩織は、ちょっとためらった。自分は銀行に行かなければならないし、接客できる女の子がまだ出勤してきていない。

 躊躇していると、さらにドアが叩かれた。詩織は、その時、こう考えた。時間を予約してもらって、改めて女の子が空いたときに来てもらえばいい。

 錠をはずしドアを開けた。ちょっと目の鋭い男の人が入ってきた。

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中国人「毒婦」の告白

田村 建雄

文藝春秋

2011年4月20日 発売