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「長い時間がかかったが、裁判所の判決を尊重します。(略)依然として歴史を歪曲している日本政府に失望感を隠せません。『損害賠償の消滅時効』を理由に被害者の訴えに背を向け、一貫して厚かましさを保ってきた日本政府が、この判決をきっかけに歴史を直視することを願っています」

一日中、沈黙を続けた韓国大統領府

 だが、韓国大統領府の反応は少し違っていた。

 判決後、直ちに南官杓(ナム・グァンピョ)駐日韓国大使を招致して「強い遺憾」を表明した日本政府とは対照的に、韓国の大統領府は一日中、沈黙を通したのだ。

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 この日の午後、大統領府の報道官室で行われたバックブリーフィング(公式ブリーフィング後の非公式ブリーフィング)では、今回の判決と、日本政府が「遺憾」を表明したことに対する大統領府の立場を問う記者の質問が続出したが、「外交部が説明するだろう」という言葉だけを繰り返した。

 そして、その1時間後の午後4時30分ごろ、外交部は次のような短いスポークスマン名義の論評を出すにとどまった。

「政府は裁判所の判断を尊重し、慰安婦被害者の名誉や尊厳を回復するためにすべての努力をしていく」

「政府は2015年12月の韓日両国政府間の慰安婦合意が、両国政府の公式合意という点を確認する」

「判決が外交関係に及ぼす影響を綿密に検討し、韓日両国における建設的かつ未来志向的な協力が続けられるよう、諸般の努力を傾けていきたい」

慰安婦訴訟で日本に賠償命令を下したソウル中央地裁 ©AFLO

慰安婦合意の無効化に成功した文大統領だが…

 文在寅大統領は、大統領候補時代から2015年の日韓慰安婦合意について強く反発してきた経緯がある。

 2017年5月の政権発足直後には、外交部内に“積弊清算”(保守派政権が残した負の遺産の清算)のための「慰安婦合意タスクフォース」を設け、「朴槿恵政権の慰安婦合意には手続きと内容に重大な瑕疵があった」との結論を導いた。さらに2018年11月には、日韓慰安婦合意に基づいて設立された「和解と癒しの財団」を解散し、合意を事実上無効にした。

 ただ、一方で文在寅大統領は「日本政府に合意破棄や再交渉を要求することはない」という態度を見せてきた。

 今回の慰安婦訴訟の判決後も、外交部がわざわざ「2015年の慰安婦合意が、両国政府の公式合意という点を確認する」と強調したのは、慰安婦合意が事実上無効化されたとはいえ、外交部が「韓日関係の破局だけは防がなければならない」という切迫した意識を持っている現れだと、韓国メディアでは分析されている。

「最も大変で困惑しているのは韓国政府だろう」

 実は今回の判決によって、文在寅政権が苦境に陥ったと分析している韓国人の日韓問題専門家が多い。

 外交シンクタンクの世宗研究所のチン・チャンス首席研究委員は『東亜日報』の取材に対し、「外交の失敗に裁判までが重なり、韓日関係がさらに悪化する危機に置かれた」と分析。 李元徳(イ・ウォンドク)国民大教授も、『ニューシース』のインタビューで、「水面下で強制徴用問題を妥結し、韓日関係改善を論議している最中にまた一つの爆弾が爆発した」「最も大変で困惑しているのは韓国政府だろう」と論評した。