「コドモアツメルナ オミセシメロ マスクノムダ」
定規を使って書かれたと思われるカナクギ文字。コロナ休業中の74歳の女性が営む小さな駄菓子屋には、何者かによってこんな脅迫ともとれるメッセージが貼られていた。ネット上には感染した人の氏名や住所、顔写真までさらされている。コロナ禍の社会にあっては、このような歪んだ“正義感”が暴走している。
劇作家の鴻上尚史さんは、「自粛警察」「マスク警察」のような世間の「同調圧力」に早くから異を唱え、「空気は読んでも合わせなくていい」と訴え続けてきた。脳科学者の中野信子さんも「自粛警察」のような人間の行動に「正義中毒」と名を付け、警鐘を鳴らしている。
この「反・同調圧力」の二人が今回、初めて顔を合わせた。対談は中野さんが強く希望して実現したものだ。というのも──。
32年前の作品がきっかけだった
中野 私がこういう問題に興味を持つようになったのは実は鴻上さんが書かれた戯曲『ピルグリム』がきっかけだったんです。
鴻上 おお、32年前の作品。
中野 例えば、終盤にとても印象的な台詞があります。
イケニエが必要なのです。そして、同時にいらないのです。必要なくせに排除する物が、必要なのです
登場人物たちは、噂をもとに一人のイケニエを見つけ、その一人がいなくなったらまた別のイケニエを見つけ、いなくなったらまた別のイケニエを見つけ──コミュニティにはイケニエが必要で、それを排除することでコミュニティが維持されていくという物語なんですね。まるで自分たちに同調しない人を激しくバッシングして排除しようとする現在の世の中を予見しているかのようです。
鴻上 脚本を読んだのは高校生の頃ですか。