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「もう年寄りは私1人やもん。外へ出られん。出てもしゃべる人がおらんから。ほんまに。ほら、みんな家売って、郊外に出てしまってるでしょ。だから。昔はなあ、隣近所と話をしたりなんかしておったんやけど、あっという間に、みんないなくなった。この子が赤ちゃんのときにここへ来たからね」

父親から中華料理を学んだ2代目

 エビ玉に舌鼓を打ちながらお話を伺っていると、“この子”と呼ばれた2代目のご主人、張芳友さん(63歳)が仕事の合間をぬって話に加わる。

「私は日本籍じゃなく、中国籍というだけで、日本生まれの日本育ちです。お母さんが日本人で、お父さんが中国人なんですね。ハーフです。ニューハーフです(笑)。で、あの方(奥様)は中国人」

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 お父様がお店を始められたのは、昭和54年のこと。まだ学生だった芳友さんは、父親から中華料理を学んだ。「修業には行ってないし、なんか知らんうちにできたみたいな」と笑うが、出てくる料理をいただいてみれば、先代の味をしっかり継承していることがわかる。14時近くになっても客足が途切れないのも、お客さんに信頼されているからなのだろう。

「いやあ、日によりますね。ここらへんはオフィス街といえばオフィス街で、会社ばっかしやからねえ。いま、リモートで出社せえへんし。週に何回とかね。だいぶ減ったかもしれません。だから、いまはもう夜はやってないんですよ」

 そう、実はこのお店、いまは午前11時から14時までしか営業していないのだ。お母さん曰く「夜なんか、田舎の道と一緒」だそうで、芳友さんもそれを認める。

 
 

「夜、この辺はシーンとしてる(笑)。開けとってもあかんわいうねえ。やる気のない店いわれてもしょうないけど、それはないけれどねえ。だから、お昼の短い時間なんですけどね。もう土日やってないし。人がいないんだから(笑)」

 ということは、やはりこの店にも後継者はいないのだろうか? 聞いてみると、「まあ、息子おるけど、しないやろうと。介護関係の仕事をしているんで。もういいです、そんなに」との答え。仕方がないとはいえ、寂しい話ではある。

厨房でのきびきびとした動きの“秘訣”は?

 ところで厨房での芳友さんを見て驚かされたのは、きびきびとした動きだ。入店時に緊張感を覚えたのも、動きに寸分の隙もなかったからである。ご本人は「いえいえ。それは短気なだけで(笑)」と謙遜するが、どうやらそれはご趣味の影響でもあるらしい。走ることがお好きなようなのだ。

 

「ここにいると通勤がないからね、お昼だけバーッと走ったり。それが唯一の好きなこと。でも、楽しみながら、誰でも走れますよ。長い距離を走るとかね、そんなんじゃなくて」

 いわれてみれば、壁にはランナー友だちとの写真がズラリと並んでいる。なかには、元女子マラソン選手の有森裕子さんとのショットも。