「毎年夏に開催される全国高等学校演劇大会でフィナーレを迎える構成を考えていたのに、とんでもないことが起きてしまって」
と振り返るのは相田冬二さん。この度、知る人ぞ知る高校演劇の世界を取材した『舞台上の青春』を上梓した。
「高校野球に甲子園があるように、高校演劇にも全国大会があること自体、あまり知られていないかもしれません。しかし全国で演劇部のある高校は約2000校。その中で全国大会に出られるのは、たった12校。競争率175倍の狭き門です。本書では全国大会出場を目指す各校の特色を追いつつ、もう一方で、演劇を軸とした教育の在り方を取材しました」
相田さんが取材を開始したのは2019年12月。最初に観た舞台は、福島県立いわき総合高等学校の芸術・表現系列(演劇)第16期生の卒業公演だった。
「翌1月に北海道富良野高等学校の演劇同好会を取材し、2月に長野県で開催された北関東ブロック大会を観ました。2月の段階でコロナの影が忍び寄り、春フェス(春季全国高等学校演劇研究大会)が中止に。7月から高知県で夏の全国大会が行われるはずでしたが、5月の時点でウェブ開催に変更されました。青森県立青森中央高等学校の畑澤聖悟先生は高校演劇の代名詞のような方ですが、『(コロナに)演劇が狙い撃ちされたような感じがする』と悔しさを滲ませていた表情がいまも胸を締めつけます」
執筆する上でも、大きな壁に直面したという。
「ウェブ開催は演劇の本道から外れていますし、生の舞台から得られる感動には程遠い。こんな状況を記録しても悲しいだけではないかという葛藤を抱えながら取材を継続するうちに、生徒さんたちが冷静に物事を受け止めていることに気付きました。多感な10代ですから、心には歯痒さや熱い感情を秘めているのでしょうが、それを表出せずに、現状に向き合って前に進もうとしている。そんな高校生たちの姿に心打たれました」
本書では「高校」と「演劇」の関係性についても考える。
「いい学校の条件は、偏差値の高さではなく、吟味された教育方法と、生徒の個性を重んじる気風だと思います。実際、私が取材した選りすぐりの学校は、どこも生徒の個性を大切にしていました。そして演劇という場は、そのような教育を実現しやすいのかもしれません。演劇には表方と裏方がいて、舞台の上には表現があり、それをお客さんは観に来る。非常に立体的な構造なので、多角的に物事を考える必要があります。また、違う個性を持つ人たちが演劇という興味の下に集まって、舞台という公の部分を最大限に活性化してよいものにしようとするのは、とても社会的な営みですよね。高校生たちの知性的な態度には敬意と憧れを抱きましたし、それを描くことで『青春』という言葉が持つがむしゃらで汗臭い印象をアップデートできたのではないか、と思っています」
あいだとうじ/1965年生まれ。劇場用パンフレットや雑誌、ネット媒体に映画レビューや映画人へのインタビューを寄稿。映画やドラマのノベライズも手掛ける。昨年より、Zoomトークイベント《相田冬二、映画×俳優を語る。》を開催している。