文春オンライン

2021/01/22

――小説を書き始めたのはいくつの頃で、どんなきっかけだったのですか。 
 
西條 30歳を過ぎてからだと思います。翻訳がやりたくて翻訳科のある英語専門学校に入ったんですけれど、英語の力が足りなくて挫折しまして。それで就職したんですが、日本語は得意みたいだから自分で書いてみようかなと思ったのが最初です。 

宮部みゆきさんの『初ものがたり』を読んで目覚めた

――翻訳をやりたかったということは、時代小説はあまり……? 
 
西條 小説を書き始めた時点では、時代小説はほとんど読んでいませんでした。むしろちょっと苦手だったんですね。私は北海道出身で、城下町や宿場町といった古いものが何もないところで育ったので、それを文字で理解するのが難しかったんです。

 宮部みゆきさんの『初ものがたり』を読んで、はじめて「時代小説って面白いんだな」と思いました。それと、30代の半ば頃、たまたま友人に時代劇マニアがいて、本も大量に持っていたので貸してくれたんですね。

 そこからいろいろ読んでいるうちに、『金春屋ゴメス』のような話が浮かびました。ゴメスはもともと現代もの用のキャラクターとして考えていたんですが、その過程でああいう感じになりました。 
 
――デビュー後は、ファンタジー、現代もの、時代小説と幅広く書かれていますが、やはり時代小説を書く方だというイメージが強いかと思うのですが。 
 
西條 デビューした当初は時代ものを書く気はまったくなくて。というのは、時代考証に自信がなかったんです。『金春屋ゴメス』はSFという逃げ道がありましたけれど、まともな時代小説を書くとなると絶対に考証力がないので突っ込まれるなと思っていました。

 

 でも、時代小説の注文ばかり来たんです。新人だから断るなんてできなくて、資料を一生懸命調べながら自転車操業で無理くり書いて、その積み重ねで今に至ります。まったくこういう予定ではありませんでした。 

 知らないものを書くとなると、嫌でも覚えるじゃないですか。それで、デビュー後、『金春屋ゴメス』の次に『烏金』という、主人公が金貸し婆の手伝いをしながら貧乏人を助ける話を書いたのは、江戸時代のお金がどうなっているか分からなかったから、あえて題材に選んでいろいろ調べて書いたんです。 
 
――ああ、普段時代小説を読まない知人が、「西條さんの時代小説は読みやすい」と言っていたんです。たぶん、そういうところが理由ではないかと。 
 
西條 そうですね。自分が苦手なものだから、できるだけ読みやすく、敷居を低くしたいというのは今でも心掛けています。自分が書くようになって初めて気づいたんですけれど、宮部さんの時代ものは、初心者でも読みやすいように非常に気を使われているんです。そのあたりは私もちょっと真似しました。 

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写真=鈴木七絵/文藝春秋

【第164回 直木賞受賞作】心淋し川

西條 奈加

集英社

2020年9月4日 発売

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