著書『心淋し川』(集英社)で第164回直木賞を受賞した西條奈加さん。前編では時代小説は「苦手だった」という意外な過去を明かした。後編では、江戸時代の食べ物からアニメという意外な趣味まで、幅広く聞いた。(前編はこちら

西條奈加さん

――登場人物の職業などの設定はどのように決めているのですか。 

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西條奈加(以下、西條)​ 私はどちらかというとストーリー先行型なので、キャラクターや職業や家族構成などは後から考えることが多いです。江戸時代の職業一覧みたいなものが机の目の前にあって、それをパラパラッとめくりながら「じゃあ、これにしよう」って。 

――『心淋し川』の差配の茂十もそうですが、『わかれ縁(えにし)』の離婚の相談に乗る公事宿であったり『せき越えぬ』の箱根の関守であったり、人の面倒を見る人間もよく登場する印象があります。 

西條 ストーリーの展開上、必要な職業なんです。みんなと関わって面倒を見る職業というと、たとえば長屋だったら本来は大家さんですが『心淋し川』の場合は名主さんがいないものですから、差配という形にして置くことにしました。 

【第164回 直木賞受賞作】心淋し川(集英社)

時代もので料理を書くのは結構しんどい

――作品に出てくる料理を、作り方を含め丁寧にお書きになりますよね。『心淋し川』の心町の飯屋も素朴な材料で工夫して作っていますし、吉川英治文学新人賞を受賞した『まるまるの毬』や続篇の『亥子ころころ』は和菓子屋の話だし、『上野池之端 鱗や繁盛記』といった料理屋の話もお書きになっている。 

西條 食べることは本当に好きなんです。欲の中では圧倒的に食欲が高い人間です。ただ、時代もので料理を書くのは結構しんどいんですよ。まず季節を考えなきゃいけないし、江戸前じゃないといけない。だから小説内に料理を一品出すだけでも、この材料は使えるのかなどといったことを30分くらい検討したりします。

 この前、新聞連載用に料理屋ものを書いたんですが、それも本当に大変でした。料理ものって売れ筋なのでよく頼まれるんですけれど、「時代ものの料理シリーズはこれ以上増やせません」といってお断りするくらいです。 

 ただ、和菓子に関しては、当時作られた調理本みたいなものがあるんです。水と粉をこねるくらいの簡単な手順しか書かれていないんですけれど、そうした本とか、それをもとに和菓子を再現した本もある。江戸から残っている老舗一覧もあるので、お菓子の資料はまあまあ手に入ります。料理となるともっと多岐にわたるので、それで難しいんですが。 

――なるほど。『まるまるの毬』と続篇の『亥子ころころ』の和菓子屋、南星屋は麹町にあるんですよね。今日は「この近辺にあったんだなあ」と思いながらここ(文藝春秋)に来ました。 

西條 私、会社員だった頃、じつは文藝春秋ビルの新館に入っている会社に3年くらいいたんです。それで麹町は詳しいというか、馴染みがあったので舞台に選びました。もう20年くらい前のことですが、今もここに来ると懐かしいなって思っています。