海外、伝統芸……多様化するお笑いのスタイル
しかし、状況はまた変わりつつあるのではないだろうか。ここしばらく、渡辺直美やピースの綾部祐二などアメリカに留学する芸人があいつぎ、またYouTubeを通じて海外でも人気を得たピコ太郎のようなケースも生まれた。こうした流れのなかで、芸人のあいだで海外のエンターテインメントに学ぼうという機運が再び高まりそうな予感を抱く。
他方で、すゑひろがりずや東京ホテイソンのように、漫才やコントに狂言などの伝統芸のスタイルを採り入れる芸人も現れている。これとは逆の流れとして、月亭方正や桂三度など、漫才・ピン芸などから落語に転身するケースも目立つ。昨年、NHK新人落語大賞を受賞した笑福亭羽光も、もともとは「爆裂Q」というお笑いグループのメンバーだった。
お笑いのセンスは、生まれ育った環境によって身につくところが大きい。松本人志をはじめ「0から生み出す」タイプの芸人たちは、デビュー前から培ったセンスを武器に、新たなお笑いのスタイルをつくってきた。
しかしセンスというのは、その後の学習によって磨いたり深めたりすることもできる。ましてや、お笑いが多様化する現在、新たなスタイルを生み出すのは生半可のことではない。そこで芸人たちが海外や伝統芸といった外の世界にお手本を求めるのは、ごく自然の流れだろう。歴史を振り返れば、それは一種の先祖返りともいえる。
お笑いにプロセスは関係ない
それでもお笑いの評価基準はつまるところただ1つ。笑いがとれるかどうかだけだ。新たなスタイルを0からつくろうとも、お手本をもとにつくろうとも、目の前にいる人を笑わせられなかったら意味がない。そう考えると、「0から生み出す人がカッコいい」という松本人志の言葉には、お笑いにプロセスは関係ないという意味が込められているようにも思えてくる。