突然のルール変更が話題になった「R-1グランプリ」、そして、最も面白い“女性お笑い芸人”を決める「女芸人No.1決定戦 THE W」……「M-1グランプリ」の成功をきっかけにさまざまな賞レースが開催されているが、それらの視聴率は本家に及ばず、一躍スター街道を駆け上がった芸人も決して多いとはいえないのが実情といえるだろう。
「R-1グランプリ」「女芸人No.1決定戦 THE W」は、なぜ大きな注目を集められないのか。それには決定的な理由があると語ったのが、ナイツ塙宣之氏。ここでは同氏の著書『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』より、その独自の見立てを引用し、紹介する。
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Q ハライチ岩井さんの「M-1は古典落語の大会」というのはわかる気がします
思い返せば、M-1が復活した2015年頃がいちばん尖っていましたね。
今、僕と同じような隘路に入り込んでしまっているのがハライチの頭脳で、ボケの岩井じゃないかな。
09年から四大会連続で決勝に進みながら、一度も最終決戦まで進めていません。2017年は準決勝で敗退してしまいました。
2017年あたりは、自分でおもしろいと信じたものを何度も否定されたことで、完全に自分を見失っているようにも映りました。その気持ちは、痛いほどわかります。
ハライチは05年結成なので、まだM-1への出場資格を持っています。ただ、2018年は出場しませんでした。ラジオでは、M-1があまりにも王道の漫才ばかりを評価するようになったので魅力が薄れたと語っていました。
岩井はM-1で自分たちのネタを披露することを、古典落語のコンクールで新作落語を発表しているようなものだと語っていたことがあります。
うまいことを言う。それは関東芸人の多くが抱いているジレンマだと思います。
落語は江戸時代から受け継がれてきた「古典」と、最近作られた「新作」に大別されます。落語の世界には、落語とはそもそも古典のことで、新作は邪道だという差別意識のようなものが少なからず存在します。新作は軽視されがちなのです。
つまり、岩井は、自分は新作を作りたい、でも古典落語の大会だから、そもそも種目が違うのだと言いたいのだと思います。その気持ちもよくわかります。
ただ、少し尖り過ぎている気がするんだよな。もう一度、シンプルに、人を笑わせたいのだという原点に立ち返ってみることも大事だと思う。
ハライチは「ノリボケ漫才」以外にも新しいことをたくさん試しています。どれもおもしろいですが、最高傑作はやはり「ノリボケ漫才」だろうな。
ただ、技術的なことを言うと、あのスタイルを押し通すだけなら四分は長いと感じました。盛り上がりをグラフで表すとずっと横ばいで、最後、ほんの少し上がるくらい。あの漫才で見せた世界観は一分半でもつくれると思うんです。M-1で優勝するにはずっと右肩上がりで、後半、大爆発しないと難しい。
もう一つ言うと、澤部は強いのですが、岩井が弱い。あえて、岩井はそういう役を買って出ているところもあるんだけど、どういう形であれ、もう少し岩井という人間を見せて欲しい気がします。
僕の中で、漫才という芸能がこの世に生まれてきた意義は「二人じゃないとこの笑いは生み出せない」という点です。ハライチは、その相乗効果が少し弱いと思うのです。