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無意識に脳はウソをつく

夢枕 人間は「美しいもの」も認識しますよね。それも前頭葉の機能ですか?

中野 おっしゃる通りです。

夢枕 「美」がわかることも、進化的には有効に働いたんでしょうか。

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中野 同じ仲間である、ということを認知することに寄与したと考えられます。

夢枕 でも、「美」って、観念であって、モノとしては存在しませんよね。そういったものに価値を見出すということは、美しいものをみたときに、脳内で何か報酬の物質が出ていたり?

中野 (きっぱりと)出ています。私が知っている実験では、男女問わず、美しい人物の写真を見た場合に、美しさを認知する脳の領域が活性化します。さらに興味深いことに、この領域は社会性を担う領域でもあるんです。というのも、美しくはないと脳で判定された顔写真であっても、笑顔の写真を提示すると、同じ場所が活性化します。つまりこの領域がコミュニケーションに寄与しているんではないかと指摘されているんです。

 

夢枕 日本人って、意味なく笑いますよね。それは、無意識にそのほうが過ごしやすいと思っているのかも。

中野 「美しい」と勘違いさせて(笑)。

夢枕 そう考えると、脳ってけっこう嘘をつくんじゃないかって思うんです。たとえば記憶に関しても改ざんするでしょ。僕が10年前くらいに読んだ本だと、寝ている人に水をかけて起こす実験をすると、丸木橋を渡っている途中、水に落っこちた夢を見たと言う人や、それに似た夢を見たという人が一定数いたそうです。要は、それまで本当にそういう夢を見ていたわけではないのに、水をかけられたときに脳内で物語を作っちゃったわけじゃないですか。

 

中野 自分が水をかけられたという感覚情報や、いま水に濡れているということを認知すると、辻褄を合わせようとして脳が勝手に物語を作るんですね。

夢枕 やっぱり。昔、ある有名な作家の息子さんが靴を失くした際、「盗まれた」と嘘をついたらしいんです。でも、片方の靴はあったんですね。で、「盗むんなら、どうして泥棒は両方とも持って行かなかったんだ」と言ったら、「盗んだ人は片足だったんだ」と返したそうで、さすが大作家の血は争えない(笑)。これも瞬間的に言い訳のために物語を作ったんじゃないかって思うんです。

中野 興味深いですね。それは言語的な能力を駆使したのか、それとも物語をクリエイトする能力が働いたのか。

人間の脳は物語を作るように出来ている

夢枕 現在の脳の研究でその2つは区別はついてるんですか?

中野 いえ、言語能力のうち、センテンスや意味くらいなら、脳のこの領域が担っているということは判明しています。ただ、高度に伏線が張り巡らされたような物語をどう作っているのかといったことは全然わかっていないんです。

夢枕 ちなみに僕が小説を書く際は、行き当たりばったりで(笑)。

中野 ご冗談を(笑)。

夢枕 いえ、本当の話なんです。僕の場合、初めから辻褄を合わそうとせず、まずは面白いと思う要素をいっぱい盛り込んでいく。後半近くになると、風呂敷を畳まなきゃいけないので、「どうやったら辻褄を合わせられるか」考えるんです。最初から物語の構成を考えてしまうと、みんなが考えるようなアイデアしか出てこないんですね。その点、このやり方だと、思ってもみないアイデアが出てきます。

中野 そんな方法でお書きになってるんですね!