『AV女優ちゃん』第4話、初のAV撮影終了後、峰さんが「人生……、終わったなぁ……」とタバコを吸いながら思いを巡らせるシーンがある。結婚と出産の選択を諦めるようなセリフが続くが、峰さんは昨年4月、自身のSNSで第1子出産と結婚を発表した。気持ちの変化はいつからだったのだろうか。
「デビュー作を撮った時点ではそう思っていたんですけど、あれは、クスリ漬けにされちゃうんじゃないか……最後は外国に売り飛ばされるんじゃないか……とかと同じで、AVの世界を知らなかったときの思い込みですね(笑)。同じ時期に現役で活躍していた女の子が、AV女優を辞める理由で多かったのが、妊娠結婚だったんです。考えてみたらAV監督さんや男優さんだって、結婚したり、奥さんや子どもがいても現役で仕事をしている人がたくさんいるし、エロに関わっている人が結婚するのって普通なんだなって、割と数か月で思うようになりました」
そんな自身の経験をもとに描いたストーリーの中で、特に読者の反響が大きかったコマがある。足の不自由な男性が、AV女優をしていた峰さんのサイン会にやって来たときのエピソードだ(12話「弱い者たちの夕暮れ」)。イベントにやってきた他の男性が彼の動作を揶揄する一方、峰さんは彼のために控室の椅子を出すなど、イベントの最中、常に彼を気にかけていた。ところが、いざ峰さんの前に立った男性はAV女優である峰さんを「さらなる弱者」とみなし、差別が連鎖していくのだ。
「AV女優のサイン会に来る人って、コミュニケーションをとったり身だしなみを整えたりするスキルが低くて、世間に居場所を見つけづらい、社会的弱者が多いんです。だから、彼の場合は足が不自由であるという点が“スキルが低い部分”だと思って、それ以外の部分……コミュニケーションスキルは普通というか、ある程度の常識はあるだろう、という考え方をしていたんだと思います。でも、それも私の思い込みですよね。
私は当時……今もかな。基本的に蔑まれるようなことがあっても、漫画でも描いた通り、びっくりして何も言えないし不快を表現することもないし……。
初めは、漫画的に表現するのであれば、何か言い返したり反応したりさせたほうがいいと思って、ネームを描いていたんです。でも、後から『私には、そんな不快を表現するような能力はなかったわ』と思って、描き直しました。今、同じ状況になっても、スパっと言い返して、拍手喝采! みたいなことはできないです」