「上京したら、避妊しなさに驚いた」
高校を卒業して上京した峰さんだが、「性的価値があると認められない限り同性の友達もできない」という、生まれ育った田舎のバックグラウンドを、上京してからも引きずっていたと語る。
「いっぱいセックスしてるほうが偉い、みたいな気持ちは相変わらずあったけど、私の場合は、避妊していたのは良かったと思います。高校生にとってコンドームって高いんで、お買い得セットを皆で買って割り勘したほうが安いんですよ。私が通っていた岐阜の高校は、処女でも非処女ぶってるほうがカッコいいとされていたんで、セックスする予定がない子でもコンドームは絶対に持ってたんです。
ところが、上京してきて服飾専門学校へ入学したら、結構おぼこい感じの子が多くて処女率が高かったんです。そういった子に彼氏ができてセックスする時の避妊のしなさに驚いて、何を考えているんだ! と思いました。AV出演のデメリットがどうとか言う前に、避妊しないデメリットを考えろ! と」
『AV女優ちゃん』の巻末では、田嶋陽子さんと峰さんの対談が収録されている。峰さんは、映画『82年生まれ、キム・ジヨン』について「カップルで観に行くと踏み絵的な役割を果た」すと感想を話したり、『アラサーちゃん』の完結を記念した対談で、作家の島本理生さんから、「最終巻にはフェミニズムのことがすごく入ってきたりと、時の流れと共に題材も変化していますよね」と指摘されるなど、フェミニズム的な内容も臆さず発言する印象が強い。
「……あまり積極的にしているつもりはなくて、むしろ積極的に避けているんですけど(笑)。『アラサーちゃん』では、フェミニズム的な単語はあえて出さないようにしていたんです。
フェミニズムって基本、めっちゃ誤解が多い話題じゃないですか。だから下手に手を出すと、むしろ誤解が増すのではないかと思って、触れないほうが世のためになるのではないかと思ってたんです。
例えば、私のように“痴漢に遭って女として認められると勘違いする10代の子がいる”っていう事実がある。ただ、フェミニズムの文脈というか、“正しい女性はこうあるべき”みたいな観点で言えば、『痴漢は全て害悪で、全ての女性にトラウマを残す。痴漢で喜ぶ人なんていない!』といった論調になりがちですよね。確かに、私があのとき、『生きててもいいんだ』って思ってしまったことは、今思えばかわいそうだと思う。でも、『そのときはそう思った』とさえ発言できない空気感になってしまうことがある。『そうか! 痴漢をすると女は喜ぶんだ!』とアホな理解をする男がいる可能性を考えて、『痴漢で喜ぶ人なんていない』と、あえて解像度を低くした論調にならざるをえない。
でも、痴漢のエピソードもそうですが、『AV女優ちゃん』では誤解が起こるかもしれない細かい感情も取り上げることにしました。分からない人は分からないでいいって、考えが変わったんです。理解ができない人に合わせるのはやめようと思って。『AV女優ちゃん』を面白AV業界漫画と読む人は読めばいいし……読み方はお任せします! って感じです(笑)」
最後に、『AV女優ちゃん』を完成させるにあたっての苦労を話してくれた。
「『AV女優ちゃん』には、ビルの風景とか、ホテルの部屋の様子とか、背景が出てくるんですよ!『アラサーちゃん』の時は、背景がほとんどなかったから、今回はそれが大変でした(笑)。絵面的にアシスタントに丸投げできる絵じゃないから、自分で描くしかないなぁって思って……辛かったです! 4コマ漫画の『アラサーちゃん』のときは、1ページ2話で、ページあたり2回もオチを考えるなんて辛いから、次は絶対ストーリー漫画にしようと思ってたんですけど、『AV女優ちゃん』には、背景を描くという辛さが待っていました!」