「私は強者になりたい」
峰さんは作中で、自身の心情をこんな言葉で表現している。「私は弱者が嫌いだ。私は強者になりたい」と。
「どちらかというとその男の人への不快を描きたかったというより、私の無力さを描きたかった感じがありますね。だから、強くなりたいというより、弱者は嫌だなと改めて思った。自分は弱者でいたくないと思ったんです」
現在の峰さんは強者なのか、それとも弱者なのだろうか。
「……いろんな面から言えますよね、でもどうなんだろう。まぁ時と場合によって、弱者と強者を使い分けてますよね。便利だから(笑)。常に強者であらねばって思っているよりかは、時と場合によって演じようみたいな。その方がまだもろくない気がしますよね」
そしてもう1つ、読者の心を大きく揺さぶった逸話がある。峰さんが中学時代、修学旅行で上京した際の話だ(14話「勇気をくれてありがとう」)。峰さんが一人で東京観光をしていると、電車内で痴漢に遭ってしまったのだ。被害に遭った峰さんだったが、「私にも部分的には女としての価値があるということなのでは……!?」と、「女として肯定されたような気持ち」になった。「『異常だよね』と突っ込んでほしくて描いた」という話は、ネット上で大きな反響を呼んだ。
「東京に出てくるまで満員電車に乗ったことがなかったので、痴漢の実態を知らなかったんです。ふんわりとスカートの上からケツを触る行為だと思っていたんですよ。でも実際は違いますよね。痴漢のイメージが軽かったというか……。強制わいせつのことをいたずらと呼ぶから、罪が重いのか分かりづらいっていう理屈と同じで、きちんと理解していない人も多いと思う。
でも、本当の痴漢に遭って、男性もスーツに精液をかけられたりしたら泣いちゃうと思うんです。めっちゃキモイ! って。その服は捨てたくなるし。学生の場合は、制服に精液をかけられたとしても、母親に被害内容を言えるか? って話ですよ。結局、自分で洗って、精液をかけられた服を卒業までずっと着ることになる。
ただ、もし今日これから、レイプに遭ったとしても、私は警察には多分行かないんですよね。行って気持ちが回復するわけじゃないし、むしろいろいろ質問されて、状況を説明して、傷付くだけだし。犯人が捕まったとしてもすぐに出てくるし、逆恨みされて家を特定されて放火されたりするほうが怖いって思ってしまう。こんなことは今まで100万回は繰り返されてきたことだって思ったほうが、個人的には楽だと思う。もちろん、被害を訴え出て戦う人はものすごく立派なので応援してるけど、それをできない人が罪悪感まで抱くのは酷だし、周囲がそれをやった方がいいと被害者に勧めるのはちょっとエグく感じることもあります」