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「嫌よ嫌よも好きのうち」は大間違い…危険な性行為につながりかねない“AV教科書化問題” とは

『知らないと恥をかく「性」の新常識』より #2

2020/12/16
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 2016年頃から顕在化してきた「AV出演強要問題」はもちろんのこと、AVの誤った知識を鵜呑みにしてしまうことによって起こる危険なセックスなど、現代においてAVというメディアには、少なからず負の側面が存在する。AVがもたらすさまざまな影響、そしてこれから必要になってくるAVの在り方とはどんなものなのだろうか。

「性」にまつわる現状の問題と、これからの時代を生きていくうえで知っておきたい常識をまとめた齋藤賢氏の著書『知らないと恥をかく「性」の新常識』を引用し、紹介する。(全2回の1回目/前編を読む)

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課題としてのAV

 アダルトビデオは様々な問題と関係している。有名なところでいえば、本章の冒頭でも触れた「AV出演強要」問題がある。この問題は2016年頃から顕在化し始めた。きっかけは2016年3月に、国際人権NGOのヒューマンライツ・ナウがAV出演強要に関するレポートを発表し、法によって規制することを国に求めたことである。それを受けて、内閣府の男女共同参画会議が動き、マスメディアも報道した。その後、この問題で逮捕者も出た(*1)。

 AV業界の反応としては、2017年4月のAV業界改革推進有識者委員会の立ち上げが行われた。委員会は2017年10月にAV人権倫理機構となり、同機構は、自主規制ルールを定め、2018年4月よりルールの遵守を業界に求めた(*2)。先述した、元AV女優の森下くるみさんが出演したAVの流通停止もこの倫理機構の制度によったものである。

 また、内閣府男女共同参画局は2020年3月現在でも「AV出演強要」問題に焦点を当てたホームページを設置している。

 このように「AV出演強要」問題は、すでにAV業界や内閣府も動いている(だから十分だ、というわけではないが)。したがって、ある一定程度問題が認知されているといえる。「AV出演強要」問題の紹介はひとまず終わりにしよう。

 ここではAVが誤った知識を広めてしまっている問題を取り上げよう。理由や詳細は後回しにするが、ともかくAVはセックスのお手本にはならない。繰り返しになるが、この本では、お手本にならないはずのAVをお手本にしてしまう現象を「AV教科書化」と呼び、問題として扱う。この社会には「AV教科書化」問題があるのだ。

AV教科書化という問題

 僕がこのちょっとふざけた響きがある「AV教科書化」という概念を、いたって真面目に採用したのにはワケがある。映像と悪影響を単純な因果関係で結びつけたくなかったからだ。この点に関して、少し説明が必要だろう。

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 道徳的に望ましくない映像に対して、映像を現実に真似してしまうという批判が起こることがある。例えば、暴力的な映像ばかり見ていたら、実際に暴力に走る人になってしまうというものである。暴力的なテレビゲームに関しても同様だ。しかし、多くの場合、映像と現実をそんなに単純な因果関係で結べない。暴力的な映画を見ている人のほとんどは、基本的には現実とフィクションの区別をつけているだろう。また、格闘ゲームが好きな人が暴力沙汰を起こした場合、それは格闘ゲームがその人を暴力に走らせたのではなく、そもそも暴力的な人だったから格闘ゲームを好んでいた可能性もある。また、暴力事件を起こした人が動機を語る際に言い訳として格闘ゲームを持ち出しているだけの可能性もある。とまあ、こんな風に世の中で考えられているほど、映像と悪影響の関係はシンプルではないのだ。「AV教科書化」という新しい概念をあえて採用することで、この映像と悪影響の非常に単純化された発想を避けようと思う。だから、この本で「AV教科書化」といった時は、単に、AVを見ている人がAVの真似をしてしまう、もしくはAVを参考にしてしまう現象を記述するために用いる。