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戦後の日本には戦略はなかった

池上 そうですね。

小池 中国は、札びらを切りながら、堂々と進めていますね。アメリカに対してはワシントンの政策や外交を自国に有利に運ぶために、最も多くのロビイストを雇い、いろんなシンクタンクにも中国は資金を提供し、研究、分析にじわりと影響力を行使していますしね。

池上 中国政府が援助する中国語と中国文化の教育機関である孔子学院も、あちこちに作っていますしね。いまや世界で500校になるそうです。

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小池 ハリウッドの映画産業にも中国の影響はかなりあるでしょう。

池上 昔は中国人ってハリウッド映画では悪役か、からかいの対象であったのが、最近は英雄として扱われるようになりましたしね。やはり中国という大きなマーケットがありますから。

小池 いま中国がやっていることって、かつて日本が世界中で行ってきたことでした。ロビイストを雇い、ワシントンなどのシンクタンクを援助したり。バブルの頃には日本企業はロックフェラーセンターを手に入れ、ソニーがコロンビア映画、松下(パナソニック)がユニバーサル映画を買収して……。世界の有名なゴルフ場やワイン畑を買ったり。ただ日本の場合、それぞれ“個”として会社単位でやっていましたね。

池上 そうそう。国家としてエネルギー戦略があったわけでなく、商社が個別にエネルギーを一生懸命確保したりして。商社が頑張ってくれたから、今日の日本がある。

小池 それに対して中国は国家戦略として行っている。それも100年単位の長期戦略として。

池上 結局は、教育の話になってくるのですけれど、なぜそういう戦略を日本人は作るのが弱いんでしょう。

小池 やはり戦後、日米同盟の枠内に留まって、日本は世界から閉じこもっていたからじゃないでしょうか。ご承知のように中東、たとえばエジプトなどは、外交が最大の産業だと言うくらい、外交上手です。冷戦時には、時にはソ連、時にはアメリカと、周囲の国々の思惑や影響でやじろべえのように傾いてきました。

 先に話しましたリビアのカダフィにしても、大変な戦略家でしたよ。カダフィはアラブで除け者にされましたが、他国があまり相手にしないようなアフリカ南部のアンゴラや、スーダンといった国に積極的に近づき、お金をどんどんつぎ込んで自分の仲間を作ることを着々とやっていましたね。

池上 そうそう。

小池 対して日本はODAにしても、なんの底意ももたずにプレゼントするサンタクロース外交に徹してきました。受ける方は見返りを求めない日本に感謝していたけれども、より大きな支援が新たにくれば、過去の話に終わってしまいがちです。

池上 確かに戦後はまさにアメリカだけ見て、日米同盟が大事ですよと唱えてさえいれば、あとは考える必要がなかった時代です。

小池 対外的に余計なことをしないのがお利口だという日本だったわけです。これからも、それでいいのか。やっていけるのかという課題に、日本も正対すべきです。私は「世界は邪悪だ」という性悪説の存在もちゃんと子どもたちにも教えたほうがいいと思いますよ。

©三宅史郎/文藝春秋

池上 教育に悪いなどと言わず事実としてですね。

小池 これからの世の中、みんないい人だという性善説だけでは通らない。

池上 この5月、ドイツのメルケル首相が、G7サミットのあとで「もはやわれわれは、どこかの国に完全に頼るわけにはいかない時代になった。欧州の人々は自らの運命のためにたたかう必要がある」と演説しましたね。つまりトランプと距離をとると。

小池 そうですね。ドイツも第二次大戦後に自縄自縛が強かった国ですからね。日本もドイツも頑張っちゃう国。経済力をつけたばかりに、かえって周囲の国の仮想敵にされてきた。