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小池百合子×池上彰「いま一番日本の政治に必要なのは、情報公開と政策決定のスピード感」

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豊洲市場はオーバースペック

小池 最近はプログラミング教育を小学校からやれという話になっていますね。たとえば英語教育は明治の森有礼(ありのり)の時代からずっと議論をしています。結局日本人の英語力はアジア最低クラスのまま。これまでの教育の延長線で、単に科目を増やせば良いのか、という話です。AI(人工知能)が話題ですけれども、AIに使われる日本人にならないようにするためにはどうすれば良いのかを考えなくてはならない時代なのに。先日読んだ記事によれば、大手金融会社のニューヨーク本社にかつて600人いた高給取りのトレーダーが、いまたった2人しかいないんだそうです。みなコンピュータープログラムに置き換えられてしまったというのですね。何十万ドルと稼いでいた人たち600人を、新しい技術に置き換えると企業のコスト削減ができ、効率が上がりますよね。一方で、いまだに日本企業の株主総会では、謝罪でずらりと男ばかりが並んで何十秒頭を下げとこうかという世界。日本はいま内向き過ぎるんですよ。小さなことにすごいエネルギーを使って、思い切ったことができていない。

池上 国際競争のなかで、国際都市・東京の相手は世界なんだ、と。政局の話なんて小さい、と。

小池 私はそう思いますね。豊洲市場の問題もそうです。現在の臨海部の計画は1988年からの鈴木俊一都知事の都市博計画に端を発していて、以降は大プランがない。市場移転も議論から今日に至るこの30年の間に物流の大革命が起き、さらに変わりつつある。

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豊洲か、築地か。記者会見で言及する小池都知事。©杉山秀樹/文藝春秋

池上 低温輸送(コールドチェーン)が発達して、産地直送などの市場外の取引が大きくなったことで、市場での取引量そのものが小さくなってきているんですよね。

小池 豊洲市場は今となってはオーバースペック気味になりつつある。今後の市場と流通の議論においての大事なポイントです。

 世界史的な視点でみれば、現代は地球が狭くなっています。世界中が歴史の変革期にあるような状態になっていますが、池上さんと共通の関心事からいえば、まず中東問題ですね。ヨーロッパでの混乱の要因も中東の争乱から発生している移民、難民問題です。カタールがサウジアラビアなどから断交されている状況ですが、IS(過激派組織イスラム国)への総攻撃も集中的です。イラク領内のISの拠点モスルが陥落、シリア地域での拠点ラッカの陥落も目前といわれていますね。カリフと名乗っていたISのバグダディが死亡したと言われています。これからの動きはさらに複雑になるでしょう。

池上 5月の空爆でバグダディは死んだと報道されていますけれど、まだ分からないですよ。そこで驚いたのは、サウジアラビアの皇太子の交代です。新皇太子になったムハンマド・ビン・サルマンはまだ31歳です。

小池 カタールのタミーム首長も37歳。中東の指導者たちには若さとスピード感がありますね。

池上 カタールの首長は2013年に生前譲位で交代したんでしたね。

小池 アメリカはトランプ大統領が国内外で物議を醸していますが、先日、アラブ諸国の駐日大使の皆さんと話していましたら、「彼は素晴らしいセールスマンだ」と言うのですね。この5月にエルサレム、サウジアラビアを訪問して、米国製の武器をバンバン売りまくってきたと。サウジと12兆円もの武器の商談をまとめましたから。

池上 トランプは台湾にも1500億円もの武器売却を決めましたね。

小池 さすがトランプはビジネスマンです。ですから、次は日本に何を売りに来るのかなと思っているんですけれども。

池上 売りに来るのか、負担を押し付けに来るのか。

小池 両方でしょうか。そして日本のお隣の中国は、極めて大きい政治を展開しています。中国が提唱している中国を中心にした経済圏「一帯一路」戦略は、昔の日本で言うところの大東亜共栄圏ですよね。