「誰と相談したらいいかわからない」ある省庁の幹部が漏らした愚痴
日本国民1億3000万人全員に事故なく、ワクチンを接種させるのは「日本の医療の歴史上、最大のプロジェクト」(自民党幹部)ですが、ふたをあけてみたら、まったく準備ができていなかったという感じがします。河野氏はいわばチームリーダーです。チームみんなが彼についてこなければいけない。しかし、ある省庁の幹部は、「西村(康稔新型コロナ対策担当大臣)、田村(憲久厚労大臣)、河野……誰と相談したらいいんですか」と党幹部の1人に愚痴をもらしたといいます。河野氏を抜擢した菅首相の人事が吉と出るか凶と出るか。これは神のみぞ知るといったところです。
「首席秘書官」交代は手痛い人事
それから、河野氏ほど話題になってはいませんが、私が手痛い人事だと感じたのは1月1日付で「総理首席秘書官」とも呼ばれる政務担当の首相秘書官を、菅首相の議員秘書出身の新田章文氏から財務省出身の寺岡光博氏に代えたことです。
首相秘書官室は、まさに権力の中枢で、各省庁生え抜きの生粋のエリート官僚たちが集結しています。その中では、どうしても官僚同士の対抗心が顔を出す。そこをうまく和らげるのが首席秘書官の役割です。だからこそ、菅首相はこれまでは官僚出身者ではなく、菅事務所の秘書出身の新田氏を起用してきたはずです。過去にも、中曽根康弘内閣のときの上和田義彦氏や、小渕恵三内閣のときの古川俊隆氏、小泉純一郎内閣のときの飯島勲氏など、長く総理と一緒にやってきた秘書を首席秘書官に置き、うまくいった例はたくさんあります。しかし、菅首相は今回、政権発足からわずか3カ月で「本丸中の本丸の人事」をいじってしまったのです。これはやはり、戦の最中に川の中で馬を乗りかえるような、最もやってはいけないことではなかったか。新田氏ですらクビになるとすると、自分もクビが飛ぶんじゃないかと思う官僚もいるでしょう。官僚が全力投球で仕事に当たることができなくなる可能性があります。
しかも新しく首席秘書官になった寺岡氏は菅首相が官房長官だった時代の秘書官で財務省出身です。となると、秘書官室の中に、安倍内閣の経産官僚2人と同じように財務官僚が2人いることになります。これでは各省間のバランスも崩れるし、当然、秘書官室内の空気は悪くなる。そこまでの影響を考えたうえでの人事だったのかが、私にはわからないのです。(#2につづく)