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《44部屋中5部屋がクラスター》大相撲が苦難の時代にも消えなかった理由「そこに土俵があるからだ」

2021/01/30
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新型コロナ関連による休場者は十両以上15人を含む65人

 緊急事態宣言によって初場所は中止になるのではとの懸念も聞こえたが、最初から相撲協会にその二文字はなかった。開催へと真っすぐ進みながら、初日前日から大きく揺れた。

 検査結果判明を控え、9日午前10時からは両国国技館で15日間の安泰を祈願する土俵祭りが行われた。神主となった行司の所作が粛々と進み、30分近くの神事は終了。土俵のそばで見守った八角理事長(元横綱北勝海)や勝負審判の親方衆、感染対策による非公開で見学できないファンにとって、まさしく神頼みの心境だろう。その中に審判委員としているはずの九重親方(元大関千代大海)と友綱親方(元関脇旭天鵬)がいない。もしかしたら……と思ったら、午後12時40分に相撲協会から報道各社にメールでリリースが届いた。

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 PCR検査を受けた協会員878人のうち九重部屋の幕内千代翔馬、十両千代鳳ら力士4人、友綱部屋の力士1人が陽性反応を示した。この5人はもちろん、2部屋で生活する親方や力士らは濃厚接触者の可能性があるとして全員休場が決定。さらに昨年末に集団感染が発生した荒汐部屋、白鵬だけが陽性だった宮城野部屋も全員が出場できず、新型コロナ関連による休場者は十両以上15人を含む65人に上った。初場所の番付に載った力士は665人だから約1割を欠いた事態の中、とても正月気分には浸れないまま初日へ突入することになった……と思ったら、さらに前代未聞の出来事が起きた。

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 22歳の序二段力士、琴貫鉄が新型コロナへの恐怖から現役引退したことをツイッターで表明したのだ。

「このコロナの中、両国まで行き相撲を取るのはさすがに怖い」

 などとつづった。

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コロナは俺だって怖い。それでも俺たちは相撲を取らなくてはいけない

 感染を避けたいという理由で休場の申し出を受けた師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)が相撲協会側と相談した結果、休場に必要な診断書がないことなどから認定されず、引退を選んだという。インターネット上ではこの力士への同情や協会批判が渦巻いた。若手親方の間では、

「出場か引退かだけでなく、番付が下がることを承知で休場という選択肢を増やしても良かった」

「1人だけを特別扱いできるのか」

 との意見が交錯。私自身としては、40代の部屋持ち師匠による、

「コロナはみんな怖い。俺だって怖い。それでも俺たちは相撲を取らなくてはいけない。仕事を止めていいのか」

 との意見が胸にすとんと落ちた。